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「……クライサ」

ロイの姿が見えなくなると、リオが口を開いた。
見上げれば、視界に入るのは真剣な顔。

「お前の好きな時でいい。二、三日、俺に時間を貸してくれ」

「…それは構わないけど…」

どうしてだろう。
こちらを見つめる彼の眼は、追い詰められた者のそれにしか見えなくて。
しかし、心配の声をかけられるのを嫌がっているようで。

「じゃあその時に、司令部に来てくれ」

結局、どうしたのか聞けない間に、リオも歩いて行ってしまった。
一人残されたクライサは、彼の背を見送って、それから自身の右手に視線を落とす。
そしてギュ、と拳をつくると、来た道を戻っていった。





「おや。まだ残っていたのか」

ノックしたドアの向こうから許可の声が聞こえると、つい先ほど出たばかりの部屋に足を踏み入れた。
そこにはまだブラッドレイがおり、不思議そうな目を向けられる。

「ひとつ、聞きたいことがあるんです」

「言ってみなさい」

「リオ・エックスフィートを保護したのも、あなたの父の命令ですか?」

ブラッドレイが、片方の目を見開いた。
しかしそれも一瞬で、すぐに冷静さを取り戻した彼は空色へ向けていた視線を外し、クライサに背を向ける。
返事が無いことに不安を覚え始めた時、漸く彼が口を開いた。

「あれを引き取り、育てることにしたのは私の独断だ。何の裏も無い」

それだけ告げると、もうブラッドレイは何も言わなかった。

「……ありがとうございます。それを聞いて安心しました」

深く頭を下げ、クライサは再びその部屋を後にした。
廊下にはやはり仲間たちの姿は無く、時折軍人が通るだけ。
少しの間立ち止まっていたが、短い息を吐くと、足を踏み出した。

(リオは、向こうの駒として育てられたわけじゃなかった)

何も知らされていなかったのが、何よりの証拠だ。
彼は、(何を思ってか知らないが)ブラッドレイが息子同然に育てただけの、一人の軍人。
この国の未来を案じてこちら側につくのか、恩人であるブラッドレイの側につくのか、本人の気持ちはわからないが。

『時間を貸してくれ』

あんなに真剣な、思い詰めてさえ見える顔で頼み事をされたのは初めてで、正直戸惑っている。
彼が何を考えているのかわからない。

(…そういえば、レベッカに逃げられたあたりから様子がおかしかったっけ)

彼のことは気になるが、一人で考えていても原因はわからないだろう。
それより今は、ウィンリィの身の安否だ(エドワードとアルフォンスはそれを確認しに行ったのだ)。









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