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「さて、じゃあ早速」

「待て。何する気だ」

「え?だから言えないこと」

たまに本気か冗談かわからないことを言い出すのが、彼女の怖いところである。
ここで何を言っても止める気の無さそうなクライサの笑顔に、大きな溜め息をついた。

「本当にやめてほしいなら、早く治して歩けるようになって、力づくで止めてみなよ」

それはいつもの、自信に満ちた笑みだった。
その自信が、自分を止められる筈が無いということに対してか、ハボックの足が治るということに対してのものなのかは、彼にはわからない。
病室を出ていく少女の背中を見送り、ハボックは笑った。

「……参ったな」

そんな風に言われたら、隠居生活の準備なんてしていられない。
死ぬ気でリハビリするしかなさそうだ。
彼の碧眼には、強い光が宿っていた。









「待てっつってんだろうが!!」

「だから待たないっつってんでしょ!!」

何故この二人が揃うと、こうも騒がしくなるのだろうか。
病院の廊下を全力疾走する大人と子どもに、医者も看護師も患者もその家族も、呆れを通り越して感心していた。

「いいから来いっつーの!!」

こちらはリオ。

「だから行かないっつーの!アンタの誘いに乗るとロクな目に遭わないんだよ!!」

こちらがクライサだ。

片や22歳、片や15歳。
その年の差は七つだというのに同レベルとしか思えないこの二人組は、下手をするとエルリック兄弟よりも騒がしい。
レベルは最低、被害は最悪の喧嘩を度々繰り広げる彼らだが、今回は早めに勝敗が決しそうだ。

「ああもうしつこいなぁ……ってもぎゃあぁぁぁあッッ!!!」

足を踏み外し、階段から転げ落ちたのはクライサのほうだった。




というわけで。

「拉致だ誘拐だ人さらいだ」

「人聞きの悪い言い方するな」

リオが運転する車の後部座席に、不機嫌面のクライサは座っている。
何処に向かうのかはわからない(いや、具体的な位置を知らされていないだけであって、目的地はわかっているのだが)。

「鋼の坊主とアルフォンスは、焔の兄貴が迎えに行ってる」

今頃は目的地に着いていることだろう、と続く言葉に、クライサは彼らと別行動をとっていたことを後悔した。
エドワードたちと行動していれば、リオから無駄に逃げ回ることも、階段から転げ落ちることも無かっただろうに。

ホテルのほうには憲兵や軍人が来ていたらしく、普通に戻っていたら暫く出してくれなかっただろうことを知る。
スカーを逃がしてしまったため、また護衛だなんだとうるさくなりそうだ。

「……で。この車はどこに向かってるわけ?」

「郊外の空家。そこに来いって命令された。……ああ、尾行られたら困るからな。後ろ見ててくれ」

「あいよ」









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