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「クライサ?どうかしたか?」
「……なんでもない」
スカーとの闘いの際に約束した通り、エドワードはウィンリィに全てを話すため、部屋の奥へと足を進める。
その場は彼らに任せて、クライサは一足先にホテルに帰ることにした。
帰ってきたエドワードたちの姿を見つけると、ロビーで待っていたクライサは彼らに駆け寄る。
「ちょうどよかった!ウィンリィ、電話だよ」
「あたしに?」
ラッシュバレーのガーフィールからの電話だ。
後でこちらからかけ直すか迷っていたところだったから、本当に丁度良かった。
ウィンリィはカウンターまで足を進めると、フロントの従業員から受話器を受け取る。
通話中、エドワードたちはロビーに設置されている椅子に腰掛けて待っていた。
どうやら電話の内容は、ガーフィールからのSOSらしかった。
ウィンリィの客たちが、早く戻ってきてくれと騒いでいるようだ。
彼女に見てもらったほうが調子がいい、やはり見てもらうなら女の子のほうがいい、以前約束しておいたパーツをつけて欲しい。
そんなことを客たちは言っているらしい。
『お姉ちゃんじゃなくちゃダメなんだから』
早く帰って来て。
受話器越しに聞こえる、彼女を待つ客たちの声。
「……うん。ごめんね、すぐ戻るね。待っててね。がんばるから。がんばるから…」
ウィンリィの頬を、一筋の涙が伝い落ちる。
彼女を見つめていたクライサが、微笑んだ。
「ありがとうね……」
他人のために、自分のために泣ける彼女が、羨ましいと思った。
それは今のクライサにとって、無いものねだりでしかないのだけれど。
(あたしには、戦うことしか出来ないから)
それは、自分で決めたことだ。
自分が動かなければ仕方がない。
待っていることなんて出来ない。
自分自身で戦って、真実を手に入れると決めた。
(さて、この先に待ってる真実は何なんだろね)
ロイからの連絡はまだ無い。
持ち逃げすることはないと信じているから、余計な心配もしていないが。
(隠し場所を考えてるってとこかな)
とりあえず今のうちに出来ることをやっておこう。
ラッシュバレーに帰るウィンリィとそれを見送るエドワードたちは駅に向かい、今クライサは一人だ。
シャツの上にいつもの上着を羽織ると、彼女もまたホテルを後にした。
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