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「むむッ!!多勢に無勢!!ここは退却でス!!」

そう言うと、ナイフとはまた違う小さな刃物をいくつか両手にとり、水の入ったタンクや山になっている火薬に向けて投げた。
それはどちらにも円をかたどるように突き刺さり、少女は足で地面に錬成陣のようなものを素早く描く。

(まさか…)

その行動の意味にいち早く気付いたクライサは、すぐに憲兵たちをタンクと火薬の山から遠ざけた。
その直後、少女が錬成陣に手をつくと同時に、大きな爆音を上げその二ヶ所で爆発が起こる。
周囲には煙が広がり、視界はほぼゼロになる。

「くっ…そ…」

一瞬で煙に包まれたエドワードは、悔しげに顔を歪めた。
クライサもまた、なかなか開けぬ視界に舌打ちする。
その間に少女はスカーを連れ逃げ出したのだろう、煙が晴れたそこに、彼らの姿は無かった。










とりあえずは、憲兵隊に保護されているウィンリィを迎えに行くことになったはいいが。
妙な生き物(先程の少女が連れていた白黒猫だ)を拾っただとかで、車内でぎゃあぎゃあと騒ぐ兄弟にクライサは疲れた顔で溜め息をついた。
もう咎める気にもなれなかった。

案内された部屋に入ると、そこには椅子に腰掛けたウィンリィの姿。
彼女がこちらの姿を確認し、安堵に表情を弛めたのを見て、エドワードたちも肩から力を抜いた。
だが、彼女の前に座る人物に目を向けて、クライサは一瞬言葉を失う。

「やあ。リミスク少佐、鋼の錬金術師君」

「大総統!何故ここに…」

ウィンリィと向かい合うようにして椅子に腰掛けていたブラッドレイが、こちらを向いて微笑んだ。
彼は、街中の騒動について訊くために憲兵に声をかけたところ、エドワードたちの幼馴染が保護されていると聞いてやって来たらしい。
大切な人材の身内だから丁重にあつかわなければ、とまた微笑んだブラッドレイは席を立ち、ウィンリィに会釈する。

「ではお嬢さん。若者が来たので年寄りは失礼するよ」

「あ……はい、どうも」

立ち上がり会釈を返したウィンリィに背を向け、彼はそのまま部屋を出ていく。
立ち去る前に、エドワードに向け言った。

「素直ないい娘だ。大切にしたまえよ」

彼の後ろ姿を、クライサは言いようのない不安を抱きながら見つめていた。









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