×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
それからほとんどルートはベポと同じだが速度も伝えられて理解できる量も真反対な船内ツアーを無事終えてなんだかんだとゆっくり回っていたことで気づけば時間は夕暮れ時
船内には夕飯の胃を刺激する香りが漂っていた
シャチの腹は簡単に負けてぐるぐると音を鳴らしてそれに比例するように腹へったと声のボリュームも上げていく
そんな様子も慣れているらしいペンギンは鼻を鳴らして今日はカレーだな、と笑う
そしてうちのはけっこう辛めだぞ、とにやついた笑顔でこちらを見下ろした
残念ながら辛党だと負けない笑みで見つめ返せば何食わぬ顔でなら良かった、なんていうのはやはり船長が船長なら船員も船員、といったところなんだろう


「腹へった〜〜〜!!!」


効果音を付けるならバーン!が適切だろうと思われるほどの勢いで数刻振りに食堂の扉を開けば広がるのはスパイスの香りとコックたちの忙しない会話
シャチの大声に反応するのはこいつと同類の夕食が待ちきれずに既に待機している数人のクルーだった


「シャチうるせぇよ扉壊れたらどうすんだ」

「お前が直すと立て付けわりぃんだよ」

「うるせぇな!お前らが直す方がガタガタの癖に文句いうんじゃねぇ!」

『…どっちもうるさい』

「はは、その通りだな」


うるさい集団から一席だけ空けて座ればその空席に流れるように座ったのはペンギンで相も変わらず読み解けない表情を浮かべていた


『ペンギンは…まぁ、私が言うのも何だけど…疲れないの?』

「…慣れてるからなこういうの」

『ふーん…嫌な慣れだねお疲れさま』

「そう言うなら大人しくして欲しいもんだけどな」

『声に出さなきゃ伝わんないよそういうの』

「…分かってた癖に」

『何?』

「いや、そうだなって思って」


聞こえたのに聴こえない振りをすればぱっと口角を上げる辺りやはり慣れているのだろうと冷静に感じ取った
やっぱりこいつがトラファルガーの次に喰えない奴だ
次第に人も集まってきて空腹な船員達が夕食を食べ始めればスパイシーな香りが部屋だけに留まらず船内を巡っていく
言われていた通り少し辛めのそれを食べ終え席を立とうとすれば次の瞬間隣に座っていた警戒心の強いペンギンが消えた


「俺が食べ終わるまで待ってろ」

『…出てきた瞬間から横暴かよ』


溢した言葉は無視されてやって来たキャプテンに気づいたクルー達が彼の食事を運んできてやけに緩々とスプーンを動かし始める


『早く食べて暇』

「俺に指図するな」

『人には指図してばっかの癖に』

「んなに暇ならこれでも読んでろ」


投げつけられた紙の束は新聞のようで
表紙を見ればでかでかと書かれている世経の文字、つまり世界経済新聞ということ


『…なんで世経』

「うちの船で新聞って言ったらそれだからな」


入れ換えられたはずのペンギンがようやく戻ってきて追いやられるように向かいの席に着いた


「キャプテンビックリするんで急にやるの止めてくださいよ」

『トラファルガーに言ったって聞いてくれないでしょ』

「善処する」


それ改善する気ないのと同じじゃん
心に浮かんだ言葉はもう突っかかってこられるのがめんどくさくて外には出さなかった


「キャプテンのそれは治す気ないのと同じだろ!」

「シャチ、耳元で騒ぐなうるせぇ」


同じことを思ったらしいシャチはトラファルガーの耳元でぎゃんぎゃんと騒ぐ子犬のように吠えて今日何度目かの注意を受けていた
きゃんきゃんうるさい子犬を横目に渡された世経を開いてもやっぱりいまいち内容は理解できない
それでもこれをやめれば手持ちぶさたになって周り絡まれるのは火を見るより明らか
仕方なく、本当に仕方なく訳も分からない世経をぱらぱらした
けど集中できない頭は騒ぐ周りの音声ばかり拾う


キャプテンすぐバラしたりシャンブルズしたりするけど俺ら結構危ない目にもあってるからな!

俺はお前らのこと信用してる

…って、良い感じに丸め込まれてたまるか!

…チッ、吠えるなペンギン

舌打ちすんな!前の島の時だって酷かったよなシャチ!

そうだよ!あんときまじで俺死ぬかと…!


間に挟まれて行われる会話はどんどん無い集中力を削っていく


で!この後どうなったか!キャプテン分かるか!?

…食事中だ騒ぐな

今食べてんのはキャプテンだけだからいいだろ


キャプテン、キャプテン、キャプテン、キャプテン
シャチの、ペンギンの声がぐしゃぐしゃになって頭の中から出ていかない
耳元にこびりつく大声と淡々とした低い声が頭をおかしくしていくような感覚がぐわりと背骨に沿って沸き上がっていく
堪えきれるわけ無い


『うるっさい!!ちょっとは静かに出来ないの!?』

「…お前が一番うるせぇ」

『あんたのせいでしょ!』

「そうだよ元はと言えばキャプテンが」

『シャチもだっての!』

「二人が騒ぐから」

『ペンギンも!!人を挟んで会話しやがってなんなんだよ!!』

「今のお前が一番うるせぇ」

『誰のせいだと…!』

「食った戻る」


ぱっと変わった視界は突然暗くなって目の前がチカチカと点滅する


『は、』

「疲れてんだろ、新聞も読めねぇぐらい集中力が切れてる、目も重そう明らかに疲れのサインだ」


突然近づいてきて目元に触れて眼球を覗き込まれる
ぐに、と目の下に触れて少し押したり引っ張ったり確認するような動作をして次は首に触れた
耳の下から流れ落ちるように顎の付け根へ動くのを何度か繰り返す


『ちょ、っと…なに、』

「風邪では無さそうだなさっさと寝ろ明日に響く」


そう言って触れていた手を離してそのまま引っ付かんだブランケットを投げ付けてきたトラファルガーはチェアに座ってバインダーに付けられた紙を眺め始める


『別にあんたに言われなくても体調管理ぐらいできるっての』

「…落ち着きがねぇ、些細なことも過剰に気にする、イライラして攻撃的になる、ぼうっとしてる…ストレスも貯まってんのか…それでよく体調管理ぐらいできるって言えたな」


ため息を付いてバインダーを先程までと同じ様に伏せて置いて立ち上がってこちらへ寄ってきたトラファルガーを視線で追いかけていくと自然と顔が上がる
隈だらけの目を持った男に体調管理がどうだとか言われたくなんて無い
じっと睨む様に見つめていれば片手で簡単にソファへ倒されて握っていたはずのブランケットを広げられた
瞬いている間に行われた一連の作業に脳がついていけていない


「寝ろ」


置いてけぼりを食らった脳は単純で言われた通りに動き出す
なぜだか急に瞼が重くて一度の瞬きを行うのに時間がかかる
優しくて暖かい何かが頭に触れて髪の毛を揺らした
動かすのも億劫な顔を少しだけ動かして目線を頭上に向ければソファの前に座ったトラファルガーがゆっくりと、優しく私の頭に触れているのが見えた
何でそんなことしてんの早く退けてよ
言いたい浮かんだ言葉は蒸発してするすると体から消えていく
目線をずらしてトラファルガーを見ると視線はもうすでにソファ前のテーブルに置かれていた本を持つ空いた片手へと移っていた
子供を寝かしつけるみたい
ぼんやり考えながら少しずつ意識が薄れていく
トラファルガーの無駄に整った横顔を見ながら気づけば目を瞑り深い眠りについていた



先程読み終わった本を仕方なくもう一度ぱらぱらと読み返していれば隣から寝息が聞こえて顔を覗けば瞑って隠された瞳にゆっくり上下する胸
めんどくせぇやつを拾っちまったな
本を片手に立ち上がってチェアに戻る
片手に持った本は読み終わったやつらでできたタワーの仲間に入れて伏せて置いていたバインダーを表に向けた
紙に書かれた名前はそこで優雅に眠りに着いたやつの名で
身長も体重も生年月日も包み隠さず書かれた薄っぺらい一枚の紙が少し前に開けた窓から流れ込んだ空気が揺らす
今だ空欄も見受けられるそれはこれから少しずつ埋まっていってその頃にはこいつのカウンセリングも終わって一人で生きられるようになってそうしたら…
そうしたら、
バインダーから薄っぺらいくせに無駄に重たいそれを外してファイルへ納めた
出来てる出来てないmanagement
TOP