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「今回出る子らはこんな感じ!誰か気になる子おった?」


公式HPを開いて一人一人の説明をした彼女と物販に並びながらぼんやりとざわめきに耳を寄せていた
Aぇが、リトルが、ボイビ、アンビetc…
耳に入るグループ名はどこも聞いたことあるものばかりでカラフルな色合いの服装のかわいく着飾った女の子たちで溢れ返っている


『…おすすめ、とかおる?』

「そりゃたいちぇ一択!!やけどAぇ!groupがおすすめかな誰かぴんとこん?」


目が行く、であればそれはもう初めからずっと紫色の服を着た男にしか視線は向いていない
でもそれは推したいから、なんて思いではなくこの場で軽率にその名前を口に出すことはしない


『この中なら…この、金髪の、末澤くん?かなぁ』

「末!ええやん末はかわいくてかっこよくて最年長やけど弄られで歌めっちゃうまいねんで!」


特にPRIDEはもうほんまに…と語り始めた彼女に列が動いたから動こうと誘導する
すれ違ったふわふわに巻かれた赤髪の女の子からは甘い香りがして斗亜くん、と言う名前が聞こえた


「んでそんときのたいちぇもめっちゃ良くてな…!」

『ごめん、あの斗亜くん…?ってどの子?』

「…斗亜?嶋崎斗亜?Lilかんさいの?」

『あーうん多分その子』

「え、どしたん?斗亜気になる?」

『そう、やな…気になるかも…?』

「そうかなまえはリトルやったか!」


末も斗亜もメンカラ赤やしペンラ赤振ったら?と言われてそうすると返事をした
列に並びながらようやく今まで名前しかまともに聞いたことの無かった斗亜くんの生体を知った
たしかに健の好きそうな良い子だ
そしてどうやら斗亜くん推しだということが彼女の中で確定したらしく物販に一緒にならんでくれて今日参加してくれたお礼にと、斗亜くんのうちわを買ってもらった
斗亜ちぇうちわで写真とろ〜!と並んだ彼女と写真を撮ったりしていればそろそろ入場しなければならない時間が差し迫っていた


「ほんまチケ発券の瞬間だけは慣れへんわ…」

『どこでも楽しんだらそこが一番良い席やから』

「ええこと言うわほんま!」


頼む!とQRコードをかざしてチケットを受け取った彼女はそそくさと道の端に避け祈りながらチケットを表にした


『あ、すごい』

「アリーナ!?え!?」

『やったやんどの辺やろな』

「たいちぇが近くに来るかもしれへん…やばい…」


喜びと驚きで混乱した彼女を支えながらアリーナはこちらと書かれた矢印に向かって歩き出す
そういえば突然アリーナおられたらビビるなんて健は言っていたが本当にそうなるとは思っていなかったけれど大丈夫だろうか
まあその辺りは彼のプロ意識を信じよう


「こんなん神席やん…ファンサうちわ持ってきてよかった…」

『センステもメンステもほぼ目の前やな…花道なんて本気出したら上がれるでこれ』

「退場やそれは…でもこれ、本気出さんでも下手したらたいちぇ触れる距離にくるやん…」

『うちわいっぱい振ろな』

「絶対たいちぇに構ってもらう!」

『その意気や』


二人でうちわを用意してペンラを握っていれば照明が落ちて空気が変わる
そこからはもう彼ら関ジュの作り上げた世界に一気に包まれた
キラキラして眩しいほどの光を浴び、届ける彼らに、彼に目を奪われてしまう
全員が登場して数曲をメンステで歌い終わり、今度は花道を歩きファンサをして回るらしく全員が散り散りに動き始めた
彼女は当たり前みたいに大晴くんを追い掛けて視線を動かしている
私はメンステからまっすぐセンステに向かう花道を通り始めた小島健、こじけんから目が離せなかった
久しぶりに見た全力の健のアイドル姿に心を掴まれ視線を奪われていた
そしてどうしても見つかってしまうかもしれない思いもあった
手を振ったりハートを送ったりしながらゆっくり近づいてくる健を見ていれば突然、視線がぶつかった
気のせい、なはずがなく一瞬驚いた顔をしたまま平常心を装って近づいてきた彼はついに私の目の前に立ち止まった


「ぇぁ…こじけん…!」


大晴くんを追い掛けていた彼女ですら目の前の男に釘付けになる程の状況に周囲の小島坦は歓喜の声をあげていた
私はぎゅっと赤色に光るペンライトと斗亜くんのうちわを握り直した


「…斗亜は俺のやからダメ紫に変え」


マイクを通さない声でむっとした、でもニヤついた顔でうちわを指差しそう言ってすぐに花道反対のファンの方へ向いた彼に周囲の人たちのペンライトの色は紫に染まっていった


「え、え、まさかの開幕からこじけんに構ってもらってるやん!」

『…これ、変えた方がいいかな』

「あえてそのままにしてまた構って貰う待ちとか!」


確かに、このまま素直に変えるのは勘に触る
彼なりの紫に変える理由をくれたのだろうが、指図されて変えましたとなるとこちらもそんな軽い気持ちで赤色とうちわを持っているわけではない
そのまま赤色と斗亜くんのうちわを握ったまま過ごした
斗亜くんが出ないとき以外は彼のうちわは下げて赤ペンラを振って過ごしていたが明らかに健がこちらを気にしているのを感じ取っていた
彼女は大晴くんが目の前を通った時に構ってもらえファンサをしっかりともらえた
Aぇ曲の時にも赤ペンラを振っていたため誠也くんからお手振りが貰えた時は誠也くんと並んで肩を組んでいた隣の紫色の衣装を着た男の視線がただ怖かった
そうして公演は終わりアンコールを迎えた
衣装からTシャツに着替えた面々が出てきてばらばらと移動しながら歌っていく
斗亜くんと肩を組み出てきた健はまっすぐメンステからセンステへ向かう花道を歩きだす
これは嫌な予感がする、とせめてうちわは下げるべきかもと思うより先に彼らは私の近くにやってきた
斗亜くんは見た目通り良い子でうちわを持ちメンカラのペンラを振る私を見つけるなり優しく笑い手を振ってくれた
しかし隣の男はそう寛容ではない
肩を組んだまままた立ち止まりわざとらしく見せつける様に彼と引っ付いた


「斗亜は俺の!はよ紫に変えや」

「いやなに言ってんすかやめてくださいよ俺のファンに…ごめんな?」

「同坦拒否やから俺!」


斗亜くんはマイクを通さず健だけわざとらしくマイクを通して叫び会場中のファンの声が響いて、誠也くんの小島うっさい!で笑いが広がった
そのままべ、と舌を見せて去っていった彼らに周囲のファン達は動揺し自坦色に戻していたペンライトをまた紫に染めていた


「めっちゃこじけん来るやん!狙われてんで!」

『や…私なんか狙わんでほしい…』

「良かったな斗亜くんも来たし!神席過ぎる!」

『…せやなあ』


どうしてくれんねんほんまに、頭の中は目立ってしまったという思いでいっぱいだった
そんな気持ちでいればあっという間にコンサートは終わって規制退場のアナウンスを待って人混みに揉まれながら帰宅した
さすがに家には誰もいなくて暗い部屋に入って電気を付け、コンサートに向かう前となにも変わっていない部屋をぐるりと見回した
クローゼットにはメンズものも多くそれなりにハイブランドがハンガーに掛けられている
これはジェシーくんがくれたからハンガー掛けて、これはええやつやから掛けて、これ高かってんでお気に入り掛けて、あれやこれやと勝手にクローゼットの陣地を広げていく男の声が頭の中で再生された
鞄などの小物を置いた棚には圧倒的に帽子が置かれていた
私自身帽子を被ることはほぼ無くほとんど持っていないはずなのにキャップだけで両手を越えそうな程置かれていて私が置いているのは片手ほどの鞄だけ
リビングテーブルの上には当たり前の様に今朝置かれたままの眼鏡が転がっている
雑誌ラックにはメンズ向けのファッション紙FINEBOYS、それからは様々なタイトルの雑誌が背表紙を向けて並び表紙を見せるように置かれているのは小島健、と書かれ単独で表紙を飾るもの
背表紙を向けて並ぶ雑誌たちにも共通して小島健やらAぇ!groupといった名前が記載されている
キッチンには今朝コーヒーを飲んでいたマグカップが二つと朝食を食べた二つの皿と二膳の箸が当たり前の様にシンクに溜められていた
洗面所に並ぶ歯ブラシは二つだし、髭剃りも置かれているしメンズ用洗顔が我が物顔で鎮座している
その横にはヘアワックスが置いてあって蓋にはこじまけんの文字が記載されている
他だって挙げ始めたらきりがない
アクセサリーケースの中だって、シューズボックスだって、冷蔵庫の中もHDDの録画もこの家にはどこにでも小島健がいる
これだけ近い存在があんなにキラキラした遠い存在に見えたのは久しぶりだった
これが初めて生で見た彼のコンサートではない
はじめてバックに付くと教えてもらった時みんなでチケットに応募してなんとか参加したのがはじめてだったのを忘れていない
だからアイドルの小島健なんて見慣れていた
彼がはじめてグループに参加してたくさんの彼のメンカラのペンライトの光を浴びてうちわを振られ名前を呼ばれているのを目の前で見たときに感じた思いと同じ気持ちを今、その時以上に強く感じていた
彼はアイドルで愛されていて私の一番近くにいる幼なじみ
ぐるぐるまわる頭のなかの思考を早く流し去りたくて早足で化粧を落として湯船に浸かった
静かなお風呂場はまた思考回路を堂々巡りで嫌になってすぐに上がった
この家にはどこにでも小島健がいる
逃れられない事実に私の頭が背けていた事実を見つめ始めた


「ただいま」


扉が開く音がして彼の声が聞こえた
そのまま鍵が閉められる音が響いてこの部屋は簡単に二人の閉鎖空間へと成り下がる


「…なにしてん、なんかあった?」


頭からタオルを被ったままローソファに座っている私の顔を見るなりそう投げ掛けてきた


「なぁ、髪も乾かさへんと痛むで?」


正面にかがんで被ったタオルで頭をごしごしと混ぜていく


「…言われへん感じのやつ?」


じっと覗き込んで眉を下げた彼の顔が眼前に広がって心がじわりと痛んだ


「もしかして、ライブ…?」


少しだけ目を逸らして、でもすぐにしっかりと目を合わせてそう溢す彼


「それやったらほんまに俺、」

『違うよ』


目を伏せて悲しげな顔をする彼に否定の言葉を伝えた


『健はちゃんと切り替えできてたんやね』

「なんの話」

『仕事とプライベート、できてないのは私の方やったんかも』


まっすぐこちらを見て言葉を待つ彼からつい視線を逸らして詰まりそうになる喉をなんとか動かした


『今日見てて、分かった健はアイドルとオフちゃんと分けられてて私の方が健のことどっちもごちゃ混ぜで見てた』

「…それでええやん、だって俺はアイドルやしなまえの幼なじみでもあるのは事実や」

『それじゃ、ダメやったやん?健はそのせいで無理してもうてた…私のせいやアイドルしてる健見慣れてんのに今日見てて、私が一番近くにいる健やないって感じてん…それって、ごちゃ混ぜで重ねて見てたってことや』


しんとした部屋には張りつめた空気だけが漂っていた
どちらも口を開かず、じっと時は流れる
私が彼をただの幼なじみで彼氏とは見れなくなってしまっているのだ
アイドルの彼のことも目の前の彼のこともどちらも好きだからこそ混濁してしまっている
テレビに映る彼に幼なじみの姿を、目の前にいる彼にアイドルの姿を、ステージにいる彼に彼氏の姿を、探してしまっている
私はもうまっすぐ小島健を見れない
強くそれを痛感し、私は彼の隣に並び立つには不釣り合いだと知ってしまった
だから私は、


「…なぁ結局それで、何が言いたいん?」


落ちた思考を止めるような冷めた声が部屋を揺らした


「アイドルと幼なじみと彼氏、俺の全部知ってるなまえの何が悪いん?そら俺の全部の姿知っとんねん、混ざるに決まってるやろ当たり前やんなまえがそんな器用な人間じゃないの俺が一番知ってる」


なぁ、聞いてんの
その言葉と共に顎を捕まれて視線を絡ませ合う


「そんな理由で、俺から逃げれると思うなよ」


獣の様な目が私の鎧を貫いて弱くて柔い所を刺激した


「それで不安やったりしんどいんやったら俺に全部吐き出したらええ、俺が無理してたんは別になまえのせいちゃう」

『でも、私がプライベートでもアイドルとしてこうしろって言ってばっかやからしんどくなってたやん』

「そんなん言われんでもせなあかんことやから別になまえのせいちゃうやろ、俺が選んで俺がそうせなあかん立場に望んでなってんなまえが勝手に責任感じんなや」

『せやけど、』

「うるさい」


捕食するように与えられたキスは言葉を奪い去っていく


「俺のことで迷惑掛けたり嫌な思いさせること多いんは申し訳ないって思うけど、勝手にそれを自分のせいやって思い込んでんのは許さへん…でも、どんな理由であれ離してやれへんからな」


分かってんのか、睨むようにそう言った彼に喉が絞まった


『っ、オフでも仕事のこと考えさせたりしてまうよ?』

「別になまえがおらんでもオフに仕事のこと考えたりするし関係ない」

『幼なじみとして接されへんかもしれんよ?』

「そら彼氏やからな」

『そうちゃうくて!アイドルとして健のこと接してまうかもしれんって…』

「俺のファンって感じで接してくれるん?それはそれで新鮮やしみたいけど」

『ふざけてるんちゃうくて、』

「そうなるくらい俺の全部が好きってことやろ?ええやんそれで」


俺がええて言うてんねん、なんて強気に言う健の目は本気で
こちらが尻込みするほどの眼差しからそらしたくなったけれどそらすことなんてできなかった


『…いやなったら、すぐ言って絶対言って』

「なるわけないやろ、何年こうやって一緒におるおもうてんねん…それになまえが俺のことアイドルとしてちゃんと扱ってくれてんのなんてずっと昔からやんいやにならへん」

『なんでいやにならんの…?』

「なんでって俺、」


根っからいつでもアイドルやからな
そうにやりと笑う健
あぁもう、本当に、ずるいIDOL
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