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それはなんの変哲もない普通の朝だった

少し早起きをして日課となった涼しい早朝の散歩をして、朝御飯を食べて大好きな音楽をBGMに少し早めに学校へ行く

これがいつもの私の朝で今もいつも通りスマホが見慣れた数字を並べ起床時間だと震える

アラームを止め連絡をざっと確認しラフな服装へと着替えイヤホンとスマホを持って部屋を出て、顔を洗ってスニーカーを履いて外へ出る

ぐっと伸びをして深呼吸を一つ
まだ暑くなる前の涼しい新鮮な空気が肺に広がる
吐き出す空気とともに心が軽くなるような気がした

イヤホンを差して今日はどのプレイリストにしようか、と指を止め少し悩む

するとトントン、と突然背後から肩を叩かれた
驚いて肩を上げ、後ろを振り返ると見慣れているけれどこの時間では見慣れ無い幼なじみが少し眠そうに目を擦っていた

急いでイヤホンを外し、時間帯を考え声を抑えて話しかける


『なんでこんな時間に起きてるの!?』

「…なまえがこの時間に散歩してるって聞いたから」

『誰に聞いたの…?』

「…颯兄」

『颯兄…?あぁ!この前会ったときか』


つい先日のことだった
颯兄に今日のように音楽を流そうとした瞬間に肩を捕まれ危うく叫ぶところだった
颯兄はそんな私がツボに入ったようで一頻り笑った後なまえちゃんは健康だね康太はまだ爆睡だよそれじゃ、俺学校行くね
と名前の通り風の速さで話をしたと思うと颯兄よりも随分下にある私の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱しさっさと学校へと向かっていったのだ


『でもなんでわざわざこんな早くに起きたの?』

「…なまえが一人で散歩してるから」

『迷子にはならないよ?流石に高2だよ?』

「…朝とはいえ人通りが少なくて危ない」

『もしかして、心配してくれたの?』

「…幼なじみが犯罪者になるのは困る」

『ねぇそれ私が加害者ってことだよね』


康太からの返事は無くすたすたと歩き始めた
もうと小さく呟いて康太の横へと並び二人でゆっくりと進み始めた

春に花びらの雨を降らせていた木は緑一色に染まっている
秋には紅葉スポットとして人気の高い公園も人気がなく静まり返っていた
冬は赤い文字で書かれたあたたかいが消え、爽やかな清涼飲料ばかり並ぶ自動販売機

季節の移り変わりを横目で眺めながらいつもと違うBGMと人の存在を感じ幸せな気分を感じる

歩きながら話す内容は他愛もない話
そういえば今度雄二と明久がプールを借りられるからと誘ってくれた代わりにプール掃除をするけど行かないか
うんいきたい楽しみだね
ふわりと足と会話が進んでいく

それでもいつもの朝より何倍も心が軽くどこかふわふわとさえしてしまう
幸せだな、と空を見ると真昼の様にギラギラと突き刺す光は無く優しく照らす光が少しだけ眩しかった

ぼーっと空を眺めながら時おりする会話を楽しみながらゆっくりと歩いているとふいに手を捕まれ引っ張られる


『えっ』

「…そっちは道路側危ない」

『…ありがと康太』

「…相変わらず危機感がない」

『え、いや、康太?手離してくれてもいいんだよ?熱いでしょ』

「…このままは、いや?」


康太は繋いだ手を少し掲げてそう聞く
血液の巡りが良くなって驚きでつい繋がった手への力が籠った


『い、いやじゃ、ない…けど』

「…こっちの方がいいってこと?」


するりと指の間に入り込んできたのは少しだけゴツゴツとした男らしい指
その指に包まれる様に優しく握られもう一度少しだけ掲げられる


『こ、康太』

「…いやだった?」


何年もぼんやりと彼の隣を歩いてきた訳ではない
彼は寡黙で感情が分かりづらいかもしれないけれど慣れれば意外と表情に感情が出ていることが分かる
今の顔は私がいやなんて言わないと確信して聞いている意地悪するときの顔だ


『私がなんて答えるか分かってるって顔に書いてあるよ』

「…なまえの口から正解が聞きたい」


近くの放送から朝を告げるチャイムが鳴る
あぁこの時間はいつもならもう朝御飯を食べてる時間だ、なんて余裕ぶって考えてみる
そういえば今日はいつも来ないルートで散歩したなとかつい長時間歩いちゃったとか関係ないことを考えてみても彼は私の返答を待ってこちらを見つめる


『いやじゃないよ康太だから』


震えずに伝えられたその言葉は彼の鼓膜を揺らし満足そうに繋がれた手の力がきゅっと強まった
ゆっくりだった歩調が少しだけ早められる
それでもきちんと彼の隣を歩ける速度に調節されている


「…少しゆっくり歩いた」

『そうだねちょっと急いで帰らなきゃ遅刻しちゃうよ』

「…なまえが朝からかわいいから」

『意味分かんないよ!?ほら、遅刻したら鉄人に怒られるから』

「…もう少しなまえを独り占めしたかった」

『…明日からもこの時間に一緒に散歩してくれるなら一緒に学校行ってあげてもいいよ』


ちらりと彼を見ると、少し険しい顔をしていた
きっとこれは朝早く起きるのはつらいけど私と一緒には居たい顔
自然と笑みが溢れて彼と視線が重なる
繋がれた手が彼の方へと強く引かれて距離が近づき唇がそっと触れ合う


「…そんな顔されると朝ぐらい早く起きる」

『え、そんな顔ってどんな顔してた?』

「…なまえが俺のこと好き好きって顔」

『こ、康太も私のこと好き好きって顔してるよ!』

「…それは常にしてる」


自然と顔に熱が集まる
いつもみたいに誤魔化すことも出来ず、仕返しの意味を込めて一番熱の集まっている手をぎゅっと握りしめた
彼もぎゅっと力を込め手の距離はこれでもかというほど近く密着する
この手の熱さはどちらの体温によるものなのかももはや分からず互いに温度を上げていく
それはまるで真夏の様に
夏、っ盛り
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