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今日のレッスンが終わって手早くスマホを開いて連絡アプリをタップしトークの一番上にピン止めされた見慣れた名前を押して今から行くとだけ送った
それが済んだらそのままスマホを閉じてメンバーに目を向けると彼らはハードなレッスンが終わった後も元気が有り余ってる様でここのステップがどうだとかここのターンがこうだとか鏡の前で世話しなく動いていた


「ちげーよりっくんここはこうやんの」

「わ、環すごいこう?」

「陸右足をもう少し後ろにすれば良いですよ!」

「なぁなぁここのステップどうやってる?」

「兄さんここは左足からこうして」

「こうだよね一織くん」


相変わらず元気だなぁ
ぼんやりと水を飲んでタオルで汗を拭いながら見つめていればそれ に気づいた三月がぐるりと振り返って名前を呼んだ


「なぁ大和さんはどっか練習したいとこないのか?」

「んーお兄さんは別に」

「大和さん歌も躍りも上手ですよね!」

「躍りはぜってー俺の方がうまいけどな」


気づけばメンバー達は鏡の前からこちらへ移動して休憩を始めていた
びっちり練習した上にまだ自主練をすればハードワークで体を壊しかねないほどほどがちょうど良い
ぼんやりする頭でペットボトルを煽ってスポーツドリンクを飲んでも味がいまいち分からないこれはまずいな、止まらなくなるそう感じて早く行かないといけないと使命感を覚えた


「今日何が食いたいとかリクエストある奴いるか?」

「王様プリン!」

「晩飯の話だよ!」

「あ、悪いけど俺今日出掛けるから御飯いらない」

「お出掛けですか?」

「いや、まぁ、そうだな、ちょっとした知り合いに会いに」

「oh、ヤマト怪しいです…!私がヤマトの秘密解き明かしてみせまーす!!」

「あ、それこの前やってた探偵のアニメの台詞だよね!」

「yes…一度は言ってみたかったです!」

「そんなことにお兄さん使わないでよドキッとした…」


それから勘の悪そうな環にヤマさんなんかぼーっとしてね?なんて勘づかれることもあったりしたが当たり障りなく談笑して頃合いを見計らいそろそろ時間だからと先に部屋を出た
軽いレッスン着だし財布とスマホ位しか持っていないけどそんなことより早く行かないといけない衝動に駆られて寮へ戻る道ではなく歩き慣れた方向へ曲がった
目の前で変わった信号に捕まった
時間確認も含めてスマホを開けば何分も前にはやくと平仮名で一件だけ送られてきていた通知に心臓が鳴った
頭の中がすべて支配されて会いたいという気持ちと早くこの手に収めたい欲求だけが疼めく
信号が変わって早足で歩いていつもの自宅へ戻った
アパートの鉄製の階段を駆け足で登って鞄から鍵を出して回した


「なまえ、」


鍵を閉めるのも忘れて靴を脱いで部屋へ上がると彼女も座ったままこちらを見た


『大和、』


彼女の声がまるで耳元で囁かれたように広がって頭の中を掻き乱す
あぁ、やっと、会えた
それだけしか考えられずお互いを確かめ合うように抱き締めた
このまま腕の中に閉じ込めておければ良いのに二人だけでこうしてずっといられたらそんな考えが止まることは無く彼女の優しい香りが広がる


「は、もう、ダメかと思った…」

『…っ、うん…何も、分かんなくなるとこだった…』


呼吸が乱れる離さないようにお互い強く腕を回した
彼女香りが、呼吸が、声が、感覚がすべてがようやく補給されていく
満たされ始めた心は漸く落ち着き始めて呼吸を整えて少しだけ腕を緩めて彼女と目線を合わせた


「やっぱり、電話だけじゃだめだ」

『何日かはそれで平気なんだけどね』


優しく微笑む彼女がやけに久しぶりに感じで自然と笑みが漏れる
楽しげな笑顔だって、怒ったしかめ面だって、余裕の無い照れ顔だって俺たちはお互いを知り尽くしてる
そんな事実が奥底から沸き上がって幸福感で満たしていく


「今までずっと一緒だったんだ…急に離れるのは無茶だろ」

『うん、頑張って慣らしていかなきゃ、いけないんだよね…』


眉を下げた自信無さげな顔は珍しい表情だった
胸が締め付けられて離したくない一度離せばもうこの距離まで戻ってこられない気がして怖くて仕方ない


「…今日は泊まってくから」

『レッスン、とかあるんじゃないの?』

「明日は学生組もテストだから休み」

『そっか、何食べたい?』

「なまえの作ったものなら何でも最近寮の飯だからなまえの手料理、食べたい」

『…寮の美味しくないの?』

「いや、そんなことはないけど、なまえの料理食べないと力でないから」


寮で三月の飯を食べる度に体の内側から作り替えられているように感じて少しだけ恐怖を覚える
彼らのまっすぐで一生懸命な思いを俺にも流し込まれている今までの俺から変えられてしまっている
俺なんてそんな思いは欠片も無いのに怖くて辛くて可笑しくなってなかなか彼らの料理は食べ慣れない
ビールを飲めば何でも流し込んで行ける点まだ救いがあるが飲みすぎだと注意して取られてでもしまえば俺はあの寮を出て食事する他無いとさえ思う


「あいつら、まっすぐなんだ…」


昨日の夜はハンバーグだった確か環が食べたがっていたから
肉の塊がまだ体の中にいるようでやけに重く感じる
脳はぐるぐるでぐちゃぐちゃで戻してしまいそうな程の不快感
拒絶反応が起きて俺の中に流し込まれた光のような感情がぐしゃぐしゃに掻き回していく
さっきは陸がオムライスが食べたいなんて言ってた気がする
そんなことを思えば脳を食い破られるかのような鋭い痛みが走る
まっすぐで純粋で努力家なやつらは俺を絆して流そうとしてる


『大和、大丈夫』


優しい手つきが背中に触れて暖かい優しさがじんわりと広がっていく
心地よくて包み込んでくれる目の前の彼女は全てを理解してくれて何でもわかってくれる
俺の全てを知ってて俺も全てを知ってる
だからこそ代用なんて出来ない存在で唯一無二の存在
手放すことなんて死に等しい彼女がいなきゃ生きていけないし彼女も俺がいないと生きていけない
この関係はずぶずぶと深まって底の無い沼の様に呼吸さえも止めて二人だけ沈めていく
止められない、止まれない
第三者から見ればこれはただの両依存で頭のおかしいやつらみたいに後ろ指指されることなんてわかってる
それでもどうすることも出来ない
俺がこんな復讐染みたことやろうと思わなければこんなに辛い思いもせずに済んだのに、なんて考えることも増えた
それでも何故か彼らと共にレッスンを受けて歌って踊るのを止めないのは俺の弱い弱い心のせいだ
彼らやマネージャーの前で俺は復讐みたいなもんだから、と口にすることも増えた様に思う
わざわざ匂わせたりなんてしなければ下手に勘ぐられて探られる様なことも起きないし問い詰められることも無い筈なのに俺はわざとらしくそれを口にしている
どうしようもなくて俺の中で矛盾する感情がエラーを起こしていく
ぐるぐると回る頭や視界を落ち着けるような彼女の優しい手の温もりが深くまで入り込んで俺のすべてを盗み取っていく
心地よくて安心できて幸せなこの状況を手放したくなくて俺はまた深くまで落ちて鎖でがんじからめにして離さないように閉じ込めるように俺だけがいればそれで良くてなまえだけがいればそれでいいと優しい聖人の様に微笑んで告げる
それに緩く笑った彼女は俺の手を握ったままご飯作るね、と立ち上がりつられて立ち上がる
彼女はきっとすべてが分かっているから核心めいたことは何も言わない
それは解決してしまえば俺が彼女から自立して彼らと共に進む道を選ぶことになるからだろうと心のどこかで思う
今の俺にはあり得もしない発想だが彼女が選択した行動がこの結論を示しているのだから間違いはないのだろう
このちっぽけな後ろ姿が近くて手を伸ばせば簡単にこの両手で閉じ込めてその呼吸さえ止めてしまえる
そうすればお互いの欲は満たされるのかもしれないと考えることもあるけれど行動に移らない所に俺たちに残された理性や良心がこの関係を示唆しているのだと感じる
それでも止められないこの関係は己の欲を満たし乾きを潤しすべてを無に戻していく
生活必需人
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