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「#寸止め」のBL小説を読む
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▼面倒にかき乱される


バレーって嫌いだ。バスケ部の私からしたら、ボールを持てない球技という時点で詰みゲーだとすら感じる。
バスケはボールを自身のチームが保持して運ぶ競技であり、バレーとはルールが全く違う。そもそも持ってはいけないくせに、体にぶつけてボールを打ち上げるっていうのが意味わからない。ただ痛いし、楽しくないし、痛いし、突き指ばっかりするし、打撲になるし。ただ痛いってだけだと正直思う。痛いの嫌いだもん。普通そうでしょうに。


「それは苗字が下手だからじゃない?」


体育の授業が私の嫌いなバレーでテンションだだ下がりの中、ミニゲームの休憩時間となっていたらしいクラスメイトの赤葦が私のテンションの低さに疑問を持ったらしい。
体調が悪いのかと聞いてきたのでバレーがただ楽しくない旨を伝えればそう言われた。
オブラートに包むこともしなかった赤葦に一瞬だけ目が点になる。
男女別に分けられ、ミニゲーム自体も別となってるのはありがたい。だって男子のスパイクだとか受けたら怪我する。


「バスケは?やってて楽しい?」


私のしかめっ面を見てだろうか、赤葦は質問を変えてきた。


「楽しい…とは正直思わないかな」


練習つらいし、バスケのコートを延々と走り続けるのはしんどい。筋トレだって私は嫌いだ。


「でも辞めないんでしょ?」


そうだ、辞めない。上手になりたいとだって思う。


「それはさ、少しでも衝撃があったからじゃないの?」
「衝撃?」


変な言い方をするものだと聞き返せば、赤葦は私の横に腰を下ろして男子チームのコートを見ていた。そのまま、なんとも思っていませんと言うようになんて事ないと言うように表情の薄い顔で言葉を紡ぐ。


「出来なかったことが出来た瞬間、自分の理想の自分に近づけた瞬間。自信と優越感と高揚感。達成感に覚える興奮」


表情に似合わず熱いことをよく喋るなぁと赤葦を見ていれば、彼はそこで言葉を一旦区切ってコートに向いていた目をこちらに向けた。
そして、ふっと笑う。


「覚えたらもう抜け出せないだろ?」


揶揄するような笑い方だったと思う。
赤葦ってもっとぶっきらぼうで仏頂面なつまらない男だと思っていたけど、そんな風に笑うのかと呆気にとられた。


「赤葦もそうなの?」


そんな風に笑い、そんな風に語るならばきっと彼にもあったのだろう。そんな衝撃が。
なんとなしに聞いてみれば赤葦は視線をまたコートに戻す。


「スポーツマンなんてみんな大抵あるもんでしょ」


まぎれもない肯定に何故かすごく感動した。そうか、そうなのか。赤葦もあるのか。

理想の自分を描いて、出来ない自分にイラついて。でも自分に負けたくなくて心が折れそうになりながらも挑戦を続ける。昨日の自分より理想の自分に近づけたら飛び跳ねるくらい嬉しくて。でも遠のいたりしたらうじうじ落ち込んだり憤ったりしてみて。


「意外とめんどくさいんだね」


私の言葉にそう赤葦が言う。


「そう、私結構めんどくさいみたい」


自分で口にすれば自覚してしまった。けど赤葦の言葉を借りるならば、きっとスポーツマンはみんなめんどくさいんだろうな。
バレーという私には詰みゲーについて赤葦と少し分かり合えたのが嬉しい。競技は違えどスポーツマンの根本は一緒なんだろう。めんどくさくて、それでいてみんなちょっとM体質なんだ。
そんな事を考えていればふと視線を感じて、赤葦が私を見ていた。じーっと寄越してくる無遠慮な視線になに?と促せば、彼はまたふっと笑う。


「でも俺、めんどくさいの好きだよ」
「は、?」


突拍子もないその言葉に困惑から間抜けな声が出た。多分私の表情も間抜けだったのだろう、可笑しそうに赤葦が笑いながら立ち上がる。


「え、ちょ、え!?」


男子コートの試合が終わり自身の順番が来たらしい。混乱する私をよそに彼はすたすたと歩いていく。まるで何もなかったかのように。

告白、と受け取るべきなのだろうか。

決めかねている私をよそに、赤葦と視線が合うことはその後なかった。