▼溶けて一つに交わって
※事後
※高専時代
見るたびに思うのは、まるで作り物みたいだということ。
陶器のように滑らかで彫刻のように美しく宝石のような煌めきを持つ彼をただただ抱きしめたいと思った。
込み上げた思いを堪えることなく此方に向いた背中に手を伸ばしてピタリとくっ付いてみれば、先程までの余韻を残す背中はしっとりと汗ばんでいて密着した事によりそれが如実に分かって嬉しくなる。いつも頑張ってくれるんだよなぁ、なんて。
「どうした?」
背後から首へ回した私の腕を撫でながら悟が私にそう聞く。
顔だけ振り向こうとした様子に更に引っ付いて見れば私の姿は完全に死角へ隠れて、視界入れるのを諦めたらしい悟が小さく笑った気配がした。
「当たってるけど?」
「当ててるんだけど?」
彼がベッドの端に腰掛けている体勢だったから、それを包むようにした私は自分の胸を押し当てるようになってしまっていた。
それをなんて事ないと言いたげに悟が指摘するので、私もなんて事はないと言い返してみる。
「…煽ってる?」
一呼吸置いて悟がそう聞いてきた。
しっとりと濡れたような、熱のこもったような声色だった事に気が付いて鼓膜が擽られて、そこから全身にぞわぞわとした感覚が流れる。
この人は本当、中毒性がある。きっと辞めたくても辞められない麻薬ってこんな感じなんだろうな。
「どうかな?」
困らせたい気持ちともっと構ってという気持ちがゆっくり混ざり合って私は意味ありげに呟く。
空気を飲んだようにした悟が私の手を解いて組み敷くまで、それは鮮やかで気が付けば私の視界は悟いっぱいになっていて自分がベッドに押し倒されていると気がつくと思わずふふっと笑ってしまった。
そんな私が気に入らなかったのか眉を寄せて怪訝な表情をする悟はどこかつまらなそうに言った。
「何笑ってんの?」
「んーん、別に」
綺麗な綺麗な、その身体にするっと手を伸ばしてみる。
鍛えられて割れている腹筋、全体的に引き締まって筋肉がついている身体は美術像の様だと思った。
陶器のように滑らかで彫刻のように美しく宝石のような煌めき。悟は本当に作り物みたいだと思う。
するすると脇腹を指で撫でた私に擽ったかったのか「っ、」と小さく息を吐いて悟は私の手を取り上げた。
「おいこら」
そんな悟にクスクスと笑えば彼は不満そうに私を咎める。
そうやって宝石の様な瞳に私しか写っていない事が、本当は何でもない事なのにすごく宝物のような気がしてとても嬉しかった。
ねえ悟、もっと私でいっぱいになってよ。
ありきたりな愛の言葉なんかじゃなくて、ただただ純粋にこの人が欲しいと思う。それと同じくらい私をあげたいと思う。私のことしか考えられないくらいおかしくなっちゃえばいいのに、なんて馬鹿なことを考えながら彼の瞳を見つめる。
キラキラとして本当に綺麗。悟は本当にどんな美術品よりも価値があってこの世にある宝石よりも美しくてそれでいてずっと尊い。
「なに?見惚れてんの?」
手をベッドに縫い付けられて抵抗が何もできない体勢が完成する。
見上げていた悟がニヤリと不敵に笑って私にそう言うと、私の心臓は簡単に忙しなく跳ね出すのだ。
悟は知らないんだろうな、私がこんなにもあなたに夢中だってこと。
「見惚れてるよ?」
ニヤリとした悟に私も笑みを返してそう言えば、予想外の言葉だったらしい彼が少しだけ驚いた様に目を見張る。けど、それは一瞬のことで次にはいつも通り自信に溢れた彼の表情が広がっていて、私はやっぱりこの人が愛しいと笑う。
「まあ俺イケメンだもんな、見惚れるのも仕方ない」
「イケメンなのは否定しないけど、イケメンよりも悟は綺麗だなって思うよ」
「……はぁ?」
髪先から足先まで美男子という物を擬人化したら悟になるんじゃないかな、とそう真面目に思うからそんな意味も込めて「悟は綺麗だよ」ともう一度言う。
彼はあからさまに顔を歪めて「何言ってんの?」と私を見下ろすので、組み敷かれている私はただその様子を受け止めるしかない。
「ねえ、悟」
「ん」
「私のこと、食べてもいいよ」
綺麗な綺麗な悟に食べてもらえたら、きっと私も綺麗になれる気がする。
私の言葉に、悟の宝石みたいな目に先程の熱がちらりと覗いて私はまた嬉しくなった。
にんまりと上がった口角が嬉しい、熱を持った瞳が私を見ているのが嬉しい。
「じゃあ遠慮なく」
ゆっくりと降りてくる彼を、いつの間にか解放された腕で招き入れる。
長い睫毛が伏せられるのを見ながら「残しちゃダメだよ」といたずらに言ってみれば彼も少しだけ笑った。
「もういいから、黙って」
そうやって落ちてきた口付けを私は受け止めて、そうして少しずつまた彼に溺れていく。
溶けて一つに交わって