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▼慈愛を引き寄せる

!【妄想企画】尾形と同じくらい銃が上手い子の話




女物の襯衣とひらひらとした履物に身を包んだその女は一目でわかるほど西洋かぶれだと思わせた。
腕を捲り洋服のあちらこちらを虫食いの様に汚した女はお世辞にも美しい佇まいとは言えない。華があるかと聞かれればそれもないだろう。
紅さえも引くことなく顔すら汚して、けれどそれを気にした様子なく熱を注ぐ様に手元を見つめる女から何故だろうか目が離せない。
香を焚いた匂いも白粉の匂いもしない、乾いた空気と微かに鼻をかすめる火薬の香りがただ尾形には心地良かった。
するすると、滑る様にその手が銃身を撫でる。その動作がゆったりとしていて焦らされている様ないじらしさを感じて彼は目を細めた。
女を抱くだけなら美しい方が良い。懇意にしている遊女などもいないが、一夜限りの付き合いならば中身は大して重要ではないのだ。
そんな見目麗しい女達と比べても、眺めるのであれば彼女が良いと思ってしまう。


「よぉ」


店の入り口から漸く声をかけると、手元に落ちていた彼女の視線がこちらを向いた。
撫でていた猟銃を抱えて名前が綻ぶように微笑むと、つられるように尾形も口角を上げた。


「こんにちは兵隊さん」


彼女がそう口にすれば、香っていた火薬の匂いが揺らいだ様に感じて尾形は鼻を擦った。
入り口からずんずんと歩み中へ踏み入ると、その様子を見守りながら名前が猟銃をカウンターの向こうにしまい込み、彼女もまた尾形の方に二歩歩み寄る。
それを目で確認しながら尾形は自身が持参した小銃を彼女に差し出す。無言で出されたそれに名前は少しだけ呆れた様に笑って、しかし文句を口にすることなくそれを受け取った。
ガシャリガシャリ、と慣れた手つきで名前が小銃を分解していく。その表情が徐々に高揚とも取れる様に綻んで行く様を見て尾形は満足感を覚えながら彼女の側にある椅子にどかりと座り込んだ。
そんな尾形にか、彼女が不意に息を吐く様に笑った。


「なんだよ」


その様子にぶっきらぼうに尋ねたのは尾形だった。
手元は止めないまま今度は解体したものを組み立てながら名前は「いいえ」と柔らかく返す。


「今日も素晴らしいなと思いまして」


わざわざいらっしゃらなくてもご自身で仕上げているではありませんか。
そう続けた名前に尾形は意味深げに笑うと、その不敵な笑みに名前は困った様な顔をした。
尾形がこの店に通う様になって数十日が経つ。ふらりと立ち入った鉄砲屋で、店主の娘だという名前が客の銃を整備していた所に出くわしたのだ。
日本人の女が洋服を着て銃を扱っている、とチグハグな様子に興味を持ち話しかけたのは尾形の方からだった。
聞けば着物よりも動きやすく作業着として洋服を着ていると彼女は答えた。確かにあちらこちら汚れた様子に成る程なと納得をする。
そして次に目を奪われたのは彼女が銃に向ける表情にだった。優しく触れる手つきと、まるで我が子に向けるような眼差し、淡く微笑んで銃を扱う様は慈愛が込められていたと思う。
そんな感情で銃火器を扱う者を今まで見たことがない。だからふと思ってしまったのだ。その表情は他にも向けられるのか、と―――
特に不具合など感じたことがない、いつだって完璧な自身の銃を彼女に整備してほしいと渡したのは興味本位からくる好奇心に動かされたからだ。勿論尾形は銃の手入れを毎日行い、磨く事すら欠かさない。軍からそう教わり毎日の行いとして身に染みていると言うのもあるが、尾形本人がそうしないと気が済まないというのが強い。つまり、尾形の小銃はいつだって最高の状態である。
だから一連の流れで小銃を見た名前が感嘆の息を吐いた時はぞくりとした。


「この子は幸せですね」


組み立て元の状態へ戻した小銃を一撫でして名前はそう口する。
どんな意味だと問うまでもなく彼女はふんわりと笑って尾形に微笑んで見せた。


「銃は整備する人によって応え方がかわりますから」


良い包丁も悪い研ぎ師では切れません。
そうやって比喩されて、なるほどなと尾形は満更でもないと口元に笑みを乗せた。
すっと返却するように差し出された自身の小銃を認めて、尾形は彼女の手ごと小銃を掴み引き寄せた。


「な、にを」


慌てるように引き寄せられた名前が抵抗を見せる様に上げかけた声を、その腰を抱き寄せることによって尾形は黙らせた。
目と鼻の先に居る名前の顔を覗き込む様にして、彼女のその瞳に自分が写っていることに気がつくと満足そうにふふんと笑った。


「お前に褒められるのは悪くないな」


これが軍の誰かならば腹の底で悪態の一つでも吐いただろう。事実尾形を超える銃の使い手はそうそういない。
だからこそ名前の銃を撫でる様に興味を持った。彼女はさすが鉄砲屋の娘と片付けるには勿体無いくらい銃の扱いに長けている様だった。
銃を我が子の様に慈愛の目で見つめる彼女の瞳に、自分が映ることには成功した。

次はどうしようか―――


「なぁお嬢さん」


離れようと腕の中でもがく名前を見下げて尾形は不敵に微笑んだ。


――手始めに名前でも覚えてもらおうか






慈愛を引き寄せる

猫に捕らえられた獲物は果たして逃げることができるのか









※言い訳
【尾形と同じぐらい銃が上手な子との話。主人公←尾形 。】
素敵な妄想ありがとうございます!構って欲しいただの猫ちゃんになってしまいましたごめんなさい!しかも銃の整備してるだけで腕がどうかまで書けてなーい!
アウトオブ眼中な主人公の目に留まるために尾形がちょっかいを出すという、本当猫ちゃんなお話です。
興味を持たれてうんざりする主人公さんも書きたいですね…妄想が広がります…ご提供ありがとうございました!