触れて愛して守りたい4


 あれから何度も達したすみれが恨めしそうに僕を睨んで言った。

「まさに、まだ……?」

「なんだかもったいなくて……ずっとこうしていたいくらい」

「……うー」

 今すぐにでも自分の欲を吐き出せそうなのに、終わってしまうのが惜しくてなかなか踏み切れなかった。すみれは疲れてきたのか頬をふくらませて不満そうだ。可愛くてずっと見ていたいなんて正直に言ったら、どういう反応をするんだろう。

「……雅兄のバカ」

「ごめん、疲れちゃったよね、もう終わりにするから」

「雅兄、優しいのに……ちょっと意地悪」

「ごめんね、すみれとこうしていられるのがすごく幸せで……」

「じゃあ……またしようね?」

 少し首を傾げてとんでもない発言をしたすみれはあっさりと僕の理性を崩してしまう。抱き締めていた身体を離して動きやすい体勢にした。驚いて開いたすみれの瞳が男になった兄の姿を映す。

「じゃあ、これで最後。少し激しくなっちゃうかもしれないけど……」

「……うん」

「本当に、またしてくれるの? 嫌じゃない?」

「うん……雅兄とするの、好き」

「ああ、もう」

 どうしてそんなに可愛いことばかり言うのだろう。まだ少し震えている細い足を上げさせて、深く挿入しても痛がる素振りは見せなかった。繋がったすぐ上の部分、すみれが感じる場所を指で擦ると強い刺激にまた泣き出してしまう。びっくりするほどの締め付けに躊躇いつつも、快感には逆らえず徐々に動きを早めていく。

「ぁっ……ん、まさ、に、あっ、ぁ」

「ごめんね、すみれ、ごめん……」

「ううん、んっ……まさに、あぁッ、あっ、や」

「はあ……すみれ、かわいい」

 言うまいとしていた単語をうっかり零してしまい、焦って謝ろうとしたけれどすみれは聞こえていないみたいだった。必死に腕にしがみついて泣きながら快感を受け止めている。

「あッ、あ、あ、や、んっ」

「……もう、終わるからね」

「や、あっ、ぁっ……まさに、まさにぃ、ぎゅってして、ぎゅってしたいの、こわいの」

「すみれ」

 離していた身体を掻き抱いてからすぐ、すみれは絶頂を迎えた。自分の欲も薄い膜の中に吐き出す。

「……まさ、に」

「ごめんね……すみれ」

「……ううん」

「すみれ、大好きだよ」

「雅兄……大好き」

 しばらくそのまま抱き締め合って、キスをしたり、頭を撫でたり、怖いくらい幸せな時間を過ごした。でも行為を終えて落ち着いて冷静になればなるほど、なんてことをしてしまったんだろうという罪悪感は重くなるばかりだった。

「……雅兄?」

「うん?」

「大丈夫……?」

「大丈夫だよ、すみれは? 疲れたでしょう」

 すみれに心配されるくらい暗い顔をしていたらしく、切り替えるために行動を起こす。とにかく水分を取るなりシャワーを浴びるなりしよう。

「何か飲む?」

「うん」

「じゃあ抜くね、すぐにお茶も持ってくるよ」

「……うん」

 接合部から自分のものを抜いて、さっと処理をした。軽く下着やシャツを身につけて冷蔵庫に向かう間に気持ちを切り替える。

 お茶を手にしてベッドに戻れば、すみれが近くに置いていたうさたんを手にして微睡んでいた。

「眠いかな? シャワーは浴びる? もう寝たいなら、体を拭くタオルでも持ってこようか」

「うん、もう寝たいかも……ちょっと疲れちゃった」

「……ごめんね」

「ううん……嬉しかった」

「え」

「雅兄とできて、嬉しかった。たくさん好きだって言ってもらえて……妹として生まれてきてくれてありがとうって言ってもらえて……すごく嬉しかった」

 ぎゅっと抱き締めたうさたんに顔を埋めてすみれは言った。血の繋がりは消えない。罪の意識も一生付き纏う。でもそれらを軽く越えてしまうくらい、すみれの言葉が真っ直ぐに響いた。何があってもこの子を守りたい。いや、守る。決心が固まった瞬間だった。

「すみれ……」

 お茶を渡すどころではなくベッドに再び潜り込んで小さな身体を抱き締める。すみれは嬉しそうに笑って、うさたんの匂いを嗅いだ。弥の癖と同じだ。僕の癖でもある。血の繋がりをひしひしと感じながらも、しばらくして眠ってしまったすみれの寝顔が微かに笑っていて、これでよかったんだと、そう思えた。