触れて愛して守りたい3
どれだけ時間をかけてすみれの身体を探っていたのだろう。すみれは肩で息をして、涙や汗でしっとりとした髪が頬に張り付いている。男になる前に抱き締めるという約束を守り、何度も重ねた自分の肌がもう限界だと訴えていた。
「すみれ、今度は下……触ってもいいかな」
「……うん」
見ただけでぐっしょりと濡れていることが分かるショーツはもう意味をなしていなかった。指をかけて脱がしていくとすみれはまた泣きそうな顔をする。
「ごめんね、恥ずかしいよね」
「見ないで……」
「うーん、それは難しいお願いかも」
「じゃあ……笑わないでね」
「笑うわけないよ」
全て脱がすとすみれが笑わないでと言った本当の意味を理解した。あまりにも幼く未発達に見える秘所。本当に男のものを受け入れられるのか不安になるほどだった。
「わたしの……変だよね」
「どうして? とっても綺麗だよ」
「だって、普通は……」
「すみれは元々体毛も薄いじゃない。普通の範囲内だよ」
「……ほんと? 変じゃない?」
「変じゃないよ。医者の僕が言うんだから大丈夫」
「良かった……みんな何も言ってくれないからずっと不安だったんだけど……雅兄がそう言ってくれてほっとした」
すみれは安堵の表情で胸を撫で下ろす。ずっと気にしていたのだろうか。身体の関係を持つことで今までの純粋な兄妹には戻れないと覚悟したけれど、こんな形で不安の種を払拭してあげることができるなんて思ってもみなかった。
「大丈夫だよ」
「……うん」
「でも、その……痛くはない? するときに」
「え、うん……ちゃんと慣れさせたら大丈夫」
「そうなんだね、じゃあ痛いときもあるの?」
「うん、いきなりされたり……あと奥は痛いときが多いかも」
「……やっぱりそうだよねえ」
漠然と全部入るのかな、と思い疑問をすみれへぶつけてみると素直に答えてくれる。見た感じはもちろん、身長は小さいし骨格も華奢だし、必然的にそうなるだろうと予想はつく。あまり奥に当たらないように、すみれが辛くないように気を付けないといけない。
「じゃあ……ゆっくり慣らしていこうか」
「……うん」
「痛かったり違和感があったらすぐに言ってね」
「うん」
「……触ってもいい?」
頷いたのを見てそっと指を沿わせてみる。恥ずかしさからか顔を手で覆ってしまったすみれの様子を見ながらゆっくりと、慎重に。愛液で十分に濡れてはいるけれど、ちゃんと慣れさせてあげないと痛い思いをさせてしまう。
「んっ……」
「痛い?」
「だいじょうぶ……」
「触って欲しいところはある?」
「……うえ、の、とこ」
「うん、ここだね」
言われた通りに上部の蕾を撫でればすみれは悲鳴にも似た声を上げ、唇を噛んだ。いつも下唇が荒れていたり内出血を起していた理由を目の当たりにする。
「すみれ、唇は噛んじゃだめだよ」
「だって……」
「恥ずかしい?」
「……うん」
「僕はすみれの声を聞いていたいんだけどな」
「変だもん……」
「変じゃないよ、大丈夫。あ、そうだ、飴舐める?」
「……え」
思い付きでその辺へ無造作に置いていた白衣を引っ張って、ポケットから飴を取り出す。患者さんにあげようといつも用意しているものだ。口に何か入っていれば気が紛れるかもしれない。ちょっと危ないかな、と脳裏に過った不安には、飲み込んでしまわないように気を付けて僕が見ていればいいという結論を出した。
「何味がいい?」
「……じゃあ、いちご」
「はい」
苺の飴を袋から取り出して小さな唇の中へ入れてあげる。甘いものが口に入った途端にすみれの表情が綻んだ。
「……おいしい」
「よかった。結構体力使うもんね、カロリー取るといいかも」
「うん……いつもね、すごく疲れちゃうの」
「途中で飲んだり食べたりする雰囲気でもないと思うから余計だよねえ」
「……うん」
「じゃあ飲み物もいる?」
「うん、飲みたい……」
苺の飴が溶け終わるまで休憩しよう。すみれの様子を見てそう決めた。冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、身体を起こしたすみれに渡す。
「おいしい……雅兄は飲まないの?」
「じゃあ僕も貰おうかな」
「はい」
口をつけたお茶を何のためらいもなく渡してくれる、そんな些細なことが嬉しい。
「美味しいねえ」
「うん、こんなの初めて……」
「初めて?」
「途中で飴を食べたりお茶飲んだり、なんだか楽しいね」
「それならよかった。雰囲気も何もないけど……すみれが楽しいなら嬉しいよ」
「うん」
飴が溶けたのを確認してから再開した行為は、いい意味で力が抜け心地よかった。緊張の糸が解けたすみれは、顔を隠したり唇を噛んだりせずに甘えてくれる。
「ああ、ぁ、んっ……まさ、にぃ」
「気持ちいい?」
「……うん、でも、もっとぎゅーってしたい」
要求されるがままに抱き締めて、キスをして、その度にすみれが蕩けた表情をするのがたまらなかった。指や舌で慣らした中からは止めどなく愛液が溢れ出て、もう受け入れてもらえそうだけれど、この時間が終わるのも惜しい気がしてしまう。
「まさにぃ……」
「うん?」
「もう……大丈夫、だから」
「……いいの?」
顔を真っ赤にして頷いたすみれをもう一度強く抱き締めた。兄でいられる最後の瞬間。ここを越えたらどうなってしまうんだろう。怖い。でも、触れたい。
「すみれ……ごめんね」
「……雅兄?」
「優しいお兄ちゃんのままでいられたら、よかったんだけど……」
「……変わらないよ。大丈夫」
「え」
「雅兄はずっと、わたしの優しいお兄ちゃんだよ」
「……すみれ」
「ぎゅーってしてくれてありがとう」
妹の言葉に促され、抱き締めていた身体を離し、準備をして改めて向き合う。ベッドの上で横たわるすみれはやはりいつもより小さく見えて、自身を宛てがった場所もこんな汚い男のものを入れてしまっていいのかと戸惑ってしまうくらい綺麗で、正直犯罪まがいなことをしているのだという事実をまざまざと見せ付けられていた。でも同時に背中へゾクッと何かが這い上がるこの感覚は弟達がいつも感じているものなのだろうか。
「……入れるよ?」
「うん……」
「ゆっくりするから、痛かったらちゃんと言ってね」
「……うん」
割れ目を開いて、男のそれを少しずつ挿入するとすみれは息を止めて顔を歪ませた。苦しそうな表情にやめようという気持ちと、進めたい気持ちがせめぎ合う。
「大丈夫? 痛い?」
「……ううん……だい、じょうぶ」
「でも……すみれ」
「……大丈夫、だから、ね、まさにぃ」
すみれの手が伸びてきて、僕の腕に触れたのに導かれていく。かなり慣れさせたのにもかかわらず中は驚くほど狭くて、思っていた通り全ては入りきらなかった。
「……あっ、ぁ」
「すみれ、ごめんね……入ったは、入ったけど」
「……うん」
「やっぱりつらいかな」
「大丈夫……ぎゅってしてくれたら」
「うん、ぎゅってしよう」
罪悪感と幸せな気持ちとが混じり合う複雑な気分だった。でもそれ以上にすみれが愛おしくて、可愛くて、今自分の腕の中にいるのが信じられなくて、溢れた言葉が口から自然と出ていく。
「すみれ……好きだよ」
「……雅兄」
「愛してるよ、すみれ」
すすり泣きが聞こえてきて慌てて謝ると、すみれは嬉し涙だと教えてくれた。何より言葉が安心できて嬉しいのだという。可愛いと言われることはたくさんあっても、愛していると言われる回数はずっと少ないのかもしれない。兄妹の関係に皆、躊躇しているのだと思われた。
「じゃあ、たくさん言おうかな」
「……え」
「すみれ、愛してるよ」
「……まさに」
「大好きだよ、すみれ。僕の妹として生まれてきてくれてありがとう」
本格的に泣き出したすみれの頭を撫でながら柔らかい髪にキスをして、落ち着くまで抱き締めていた。この震える肩にのしかかる負担をこれからも和らげてあげることはできるだろうか。純粋な兄妹という関係ではなくなってしまっても素直に頼ってくれるだろうか。これから先もずっと、守っていけるだろうか。
「雅兄……」
「……動いても、大丈夫?」
「……うん」
涙を止まったすみれが背中へ腕を回してくれたのを合図に動き出す。互いの不安を埋めるように抱き締め合いながら、どちらともなく指を絡めてキスをして、愛していると何度も言った。
「あっ……は、ぁ、まさ、に」
「……つらい?」
「ううん……きもちい」
「よかった」
浅く狭い中をゆっくり往復して決定的な快感は得られないのに、それでも十分だった。いっぱいいっぱいの泣き顔が可愛い。無意識に腕や背中に立てられる爪も、何度も名前を呼んでくれる甘い声もたまらなく可愛い。可愛い。可愛い。ああ、可愛いって言いたくなる弟達の気持ち、分かるな。
「あ、ぁ、あっ……まさに、い」
「……すみれ」
「まさにぃ、まさに、すき、だいすき」
「うん、僕も大好きだよ」
快感に身を任せながらすみれがうわ言のように繰り返す大好きという言葉に理性が引っ張られそうになるのを押さえ付ける。まだこの時間が終わって欲しくない。もっと蕩けてしまいそうなすみれの表情を見ていたい。僕の名前だけを呼ぶ声を聞いていたい。愛していると何度でも伝えたい。満たされていくような、でもまたそこから乾いていくような、欲張りな感情が幾度となく湧き上がってくることに驚きを隠せなかった。 |