家族ということ (2)


「すみれちゃん、いるかな?」

 その日の帰りにわたしはスーパーに寄り、夕食の食材とすみれちゃんが好きだと言っていた果物や食べやすいゼリーなどを買って彼女の部屋を訪れた。インターホンを鳴らすとドアが開いて寝間着のすみれちゃんが姿を見せた。

「……お姉ちゃん」

「すみれちゃん、大丈夫? 一応、果物とかゼリーとか食べやすそうなものを買ってきたんだけど……」

 スーパーの袋をかかげると、すみれちゃんは笑顔でありがとうと言った。でも疲れ切っているような、やつれた雰囲気に心がざわつく。

「お部屋、上がってもいいかな?」

 ゆっくり休んで元気になってもらいたい、と部屋に上がることを提案した。あまり食べられていないなら少しでもお腹に入れて欲しいし、もし食べられなくても果物なんかを切っておいて冷蔵庫に入れておくだけでいつでも食べられるという安心感がある。
 わたしの提案を快く受け入れてくれたすみれちゃんは部屋に入るなりキッチンの方に向かう。紅茶でいいですか、という言葉にわたしは慌てて止めに入った。

「すみれちゃん、体調悪いんだから寝てなきゃだめだよ……!そんなに気を使わないで。わたしすみれちゃんのお姉ちゃんなんだから、甘えて欲しいな」

「お姉ちゃん、ありがとう……でもね、具合悪いわけじゃなくてちょっと疲れただけなの。大丈夫だよ」

 そう言ってすみれちゃんはお湯を沸かそうとする。体調不良じゃないならいいと思うのに、顔に滲ませた疲れが酷いものに感じるのだ。歩きもおぼつかないし手元が危うくてはらはらしてしまう。

「すみれちゃん、やっぱりわたしやるから。ね?」

 ガシャン、と音がしたのは電気ケトルに水を入れる手をやんわり止めたときだった。触れた手にびっくりしたのかシンクにケトルを落としたすみれちゃんは泣きそうに顔が歪む。

「ごめんなさい」

「ううん、大丈夫だよ。大丈夫」

 落ち着かせようと背中をさする。水に濡れた寝間着の袖を見て、着替えようかと言葉をかけるとすみれちゃんは首を振った。

「でも、すみれちゃん……風邪引いちゃうから」

「ううん……大丈夫。あとで着替えるから……」

 必死な様子にわたしの違和感は大きくなっていた。びしょびしょになった袖を捲りも絞りもせず、タオルを渡してもただ覆っただけだった。どうして腕を見せたがらないのだろうか。そのすみれちゃんの姿にわたしの中で何か警報のような、危険信号のようなものがずっと鳴り響いていた。