カワイイイイナリ1


 奪われた漫画を取り戻そうと本人の不在時に押し掛けたつば兄の部屋。鍵はあず兄に貸してもらった。代償はすみれが手作りしていた今日のデザートだというプリンだ。

「なんだこれ」

 ぐちゃぐちゃの部屋を漁っているとベッドの下、奥の方に何冊かの漫画と共にあるものを見つけた。手を伸ばして取り出すと正体はビデオカメラ。初めて見るもので、埃をかぶっているわけでもなく新しい。ボタンを適当に押すと電源が付きどうやら充電もしっかりされているらしかった。

「ろくなんもんじゃねえ気がする……」

 でも好奇心には逆らえない。こっちも部屋を漁られ秘密のコレクションを見られたり、さらに内容を兄弟に公開されるという酷い仕打ちを受けているのだからこれくらいはいいだろう。躊躇わずに再生ボタンを押した。後悔するとも知らずに。

「な、んだよ、これ」

 小さな画面に映し出されたのはよく知っている顔だった。このビデオカメラ持ち主であろうつば兄と、あず兄。そしてすみれだ。でも普通の動画ではなかった。

「……やだ、やっ……やぁ」

「ちょ、すみれ、大人しくてってば。梓、すみれの腕ちゃんと抑えてて」

「はいはい」

「棗ちゃんと撮れてる?」

「……ああ」

「や、撮らないでっ……なつ兄、たすけて、やだ、こんなの、や」

「棗ー、すみれが助け求めてるけど」

「……」

「あ、助けないんだ。棗って結構酷いんだね」

「ちょー薄情じゃん」

「……オマエらには言われたくない」

 場所は分からないがやけに広いベッドにほぼ裸のすみれが横たわっていた。その腕を頭の上で押さえ付けているあず兄と、足を強引にこじ開けようとしているつば兄。ビデオはなつ兄が撮っているらしい。

 すみれの同意のもとに撮られた代物じゃないのはすぐに分かった。これから何をするビデオなのかも。心の底から不快感が込み上げてきて再生を止める。手が震えて冷や汗が吹き出た。このまま床に叩き付けて壊してしまえばいい。風呂場で水に沈めてもいい。でも何故か確認しておきたいという気持ちが拭えなかった。最低だと分かっているのに、震える指がもう一度再生ボタンを押してしまった。

「や、だ、やっ……」

「やだって言いながらも濡れてるじゃん」

「じっくり愛撫はしたからね」

「さっすが梓!」

 兄二人は慣れたようにすみれを押さえ付け、至って普段通りに会話を続ける。ビデオはかなりの頻度でブレており、なつ兄はあまりまともな精神状態ではなさそうだった。

「んじゃ入れんねー、梓よろしく」

「はいはい」

「や、だ、やめて、やっ」

「すみれ暴れちゃだめだって、手も足も縛っちゃうよ? 嫌でしょ?」

「……うぅ、う、や」

「俺的には縛るのもいいかなーって思うけど」

「さすがに可哀想でしょ」

「いやでも一回やってみたいんだよね、よくない?」

「今回はだめ。もうかなり泣いちゃってるから」

「んじゃ次はいいんだ」

「好きにしたら」

「やった!」

 つば兄のはしゃぐ声と同時にすみれの悲鳴が上がった。強引にこじ開けた足に、つば兄が腰を押し当てたからだ。ここでかなり動画はブレてまともに見れる状態ではなく、ある意味ほっとしたのもつかの間、次の瞬間のつば兄の声は悪魔のように聞こえた。

「棗ー、ほら繋がってるとこ撮って」

「はあ?」

「はーやーく」

「や、やめて、やだ」

「……さすがに嫌がってるだろ」

「ふーん……いいんだ。もう棗帰っていいよ。梓と二人で楽しむから。今まですみれに出来なかったコト、今日はたくさんしよっかなって思うんだけど?」

「……やめろ」

「じゃ、撮って★」

「クソが」

「あーこわ。梓ー、棗が怖い」

「こら、椿もあんまり棗のこと煽らないの。まあ棗は僕らの言うこと聞いた方が懸命だとは思うけど」

「……」

 ある程度離れたところから撮影していたカメラがベッドに向かって近付いていく。徐々に泣きじゃくるすみれのあられもない姿がはっきりと画面に映し出された。もちろんモザイクなどは一切なく、生々しい映像にどうしたらいいのか分からず再生を止める。

「やっべーだろこれ……」

 まずい。血の繋がった妹に情けなく反応してしまった下半身もそうだが、ビデオはかなり頭のおかしいものだ。壊してしまおうか、いやでも中身をちゃんと確認してからの方が……色んな思考が渦巻いて頭の中がぐちゃぐちゃだった。深呼吸してなんとか落ち着いて、これ以上は見ずに動画を削除しビデオカメラを元の位置に戻すことに決めた。