彼女が着る毛布を愛用していたら -Tsubaki-
ガチャ、とドアが開く音がして振り向いたのは自分だけじゃなく梓もだった。リビングで台本読みをしていて聞こえるのは二人の声だけ。そこに響いた音はなんだかとても心地よいものに聞こえて、思わず台詞を言うのを止めてしまう。
「やっぱり」
入ってきた人物は予想通り、可愛くて愛おしい妹だった。ドアの音だけでなんとなく分かってしまうのはもう末期だろうか。でもそれは梓も同じようで顔を見合わせて苦笑する。
「あ! つばに、あずに」
俺らを見つけて嬉しそうに近付いてきた彼女はなんだかもこもことしていて、さらにその可愛さを引き立てていた。
「なにそれ、かーいー!」
「暖かそうだね」
「うん!」
彼女は毛布のような生地の部屋着を着ていた。それがまたぶかぶかで自分のオタク的な部分をくすぐる。萌え袖だし、引きずっている裾も、歩きにくそうにとてとてと歩く姿も可愛くて仕方ない。
「お仕事?」
持っていた台本を見て彼女は首を傾げる。邪魔だったかな、と表情に書いてあって思わず否定した。
「いや、もうすぐ終わりにしようとしてたとこ。な、梓」
「……うん、そうだね」
本当はほとんど進めていなかったが、今が彼女の方が大切だった。梓も少し考えてから同じ考えに至ったらしく頷いてくれる。
「そっか! わたしホットミルク飲もうと思ったの。つば兄もあず兄も飲む?」
「んー、飲みたいけどちょっとこっちおいで」
彼女の提案はすごく嬉しい。でも、その前に。ちょいちょいとソファに座るように促すと、素直に頷いた彼女は自分と梓の間に腰を下ろした。
「なあに?」
上目遣いにぐっとキスしたい衝動を抑える。すぐ隣にいる梓からの視線が痛い。でもこれくらいは許してよ、と表情で伝えたら梓は溜息をついた。それを勝手にOKの合図だと解釈して彼女を抱き締める。
「つばにっ……」
「ぎゅーしたらもっとあったかいっしょ」
ふわふわの毛布にくるまれた小さな身体、風呂上がりのいい匂い、身じろぎをする仕草、どれも愛おしくてたまらない。しばらくして抵抗していた彼女も強い力に負けてか大人しくなった。そして梓を気にしながらもそっと身体に手を添えてくれる。
「はい、そこまで」
ああ、いいところだったのに。無理やり梓に身体を引き剥がされる。
「えー、全然まだぎゅーしてないし」
「独り占めなんてさせるわけないでしょ。ほら、ホットミルク飲みたいって」
一緒に作ろうか? と彼女を促してキッチンへ行く梓。上手く二人きりになろうなんて、ずるい。でもさっき彼女が身体に手を添えたあと、裾をぎゅっと握ってくれたんだよね。今日はつば兄のお部屋に行って一緒に寝たい、という簡単な合図だ。残念、梓。今日はかーいい妹を俺が独り占めしちゃうから。
そうほくそ笑みながら、二人が作ってくれる暖かいホットミルクを鼻歌交じりに待つのだった。