振り向くとお風呂上がりで、上半身裸のなつ兄が立っていた。まじまじと身体を見るのが恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
「なつ兄……風邪引くよ」
「はは、いつもと同じだろ」
風呂上がりは暑いから、なんてなつ兄が上半身裸で出てくることは珍しくない。でもなんだか恥ずかしかった。会うのも久々だし、何より部屋が明るくて目のやり場に困る。
「すみれ」
「ん……」
上から優しい声色が聞こえて、けれど顔を上げられなかった。なつ兄は呆れているだろうか。もっと恥ずかしいことをいつもしているのに、なんて言われたらとても言い返せない。
「恥ずかしいか?」
「うん……」
「服、着てくるよ」
頷くだけのわたしの頭を撫でてからなつ兄はシャツを出してきた。布の擦れる音が止んで顔を上げればちゃんと部屋着を着た、優しい顔をしたなつ兄と視線が絡み合う。
「これでいいか」
「……うん」
優しい表情と服を着てくれたことにほっとしてキッチンへと向かおうとした。それを妨げたのはやっぱりなつ兄で、腕を引っ張られまたいつの間にか胸の中に収まっていた。
「なつに、ご飯……」
「カレーは一晩置いた方がうまいだろ」
カレーは一晩置いた方が美味しい……その言葉を噛み砕けば今日は食べられないという意味になってしまう。
「な、なつ兄今服着たのに……」
「オマエが恥ずかしがるからだろ」
「サラダも作ったのに……」
「冷蔵庫入れとくから」
「つばきとあずさのご飯が」
「腹減ったら勝手に食えるようにしてある」
「わ、わたしお風呂……」
「終わったあとに入れてやるよ」
あ、これはきっと従うしかできないパターンだ。やっと気付いたわたしをなつ兄は軽い口付けを落としながらベッドへと誘導する。
なつ兄は一つ嘘をついた。深くなっていく触れ合いにきっと離れる瞬間なんか全くなくて、テーブルに置いたままのサラダは明日の朝少しだけしんなりとしているだろう。せっかく作ったのに、と思わず頬を膨らますとそれをどういう意味で受け取ったのかなつ兄は苦笑した。そして今、何に対して頬を膨らませたのか忘れられくらいの深くて甘いキスをくれた。
END