「……この前会ったよ?」
「あれは俺がマンションに顔出しただけだろ」
三日前、わたちゃんに頼まれていたゲームのサンプルを持ってなつ兄はマンションへ帰ってきた。そのときに会って一緒に夕ご飯を食べたけれど、こうした触れ合いのことを言っているのなら一ヶ月ほどしていない。
「じゃあ、一ヶ月……」
「……長い」
ぎゅうと身体に回された腕の力が強くなる。そしてなつ兄は首筋に顔を埋めた。頬に当たる髪がくすぐったい。
「すみれ……」
「久しぶりだね」
可愛い、と言ったら怒られるだろうか。いつもわたしがなつ兄に翻弄されてばかりなのだから、たまにはこういう状況もいいかもしれない。なんて呑気に考えていたら、急に首筋へ生温かい感触がした。
「んっ……」
なつ兄の舌がさっきつけられた赤い痕のあたりを這う。あ、だめかもしれない。こうしてすぐなつ兄のペースに呑み込まれてしまう。
「な、つに……ご飯食べなきゃ……」
「ああ」
「カレー、美味しくできたよ……?」
ああ、なんて言っておきながら止める気なんてないくせに。少しずつ深くなっていく触れ合いに負けて、ふつふつと温まり始めたカレーの火を消したのはわたしの方だった。
「……オマエの負けだな」
「む」
誰のせいだと思っているのだろう。なつ兄が先にご飯を食べたいと言ったのに。だったら最初からご飯じゃなくて、そう言ってくれたら良かったのにと思う。
「オマエの後ろ姿を見たら我慢できなくなったんだよ」
「え……」
まるで心の中を見透かしたように言ったなつ兄は、次の瞬間にもうわたしの唇を塞いでいた。
END