わたしの問いかけに前者を選んだなつ兄は部屋に漂うカレーの匂いにうまそうだな、と微笑んでまた頭を撫でてくれた。
「でもなつ兄のご飯の方が美味しいよ」
「まあ俺は一人暮らししてるからな。けどオマエが作ってくれたってだけでうまく感じるんだよ」
ネクタイを緩めたなつ兄の顔をぼうっと眺めてしまったのは、なつ兄がこれでもかというくらい優しい顔をしたからだ。この顔にわたしは弱い。こんな表情をわたしがさせているのかと思うとくすぐったくてなんだかそわそわとしてしまう。
「ん? どうした?」
「ううん……カレー温めるね」
「ああ」
照れ隠しでそそくさとキッチンに行き、作ってあったサラダを冷蔵庫から出す。カレーを火にかけて、ふつふつと温まるまで軽くかき混ぜて、それからご飯も……と思ったときに急に身動きが取れなくなった。スーツから部屋着に着替えたなつ兄に後ろから抱き締められたと気付くのに時間はかからない。
「な、つに……危ないよ」
身体を捩っても離してくれそうになかった。何も言わずに抱き締められて、なつ兄の表情を見ようと後ろを見たくても強い力で振り返れない。
「なつ兄?」
「……どのくらい、会ってなかったんだ」
どのくらい、とはなつ兄とわたしが会えなかった期間のことだろうか。この状況で思い付くのはそれしかなくて、でも何より強く抱き締められた身体が熱くなり鼓動が早く刻むのが恥ずかしかった。いつまでも慣れないんだな、と言われてからかわれることも、このまま先の行為になだれ込む可能性も、全て。
「……この前会ったよ?」
「二週間くらいかな……」