「京兄かな?」
よくよく考えてみるとわたしも母親似だ。すみれちゃんは私似ね、とお母さんはいつも嬉しそうに話す。昔から京兄と一緒にいると、兄妹だとすぐに周りにも分かってもらえた。髪質だって同じように柔らかい。
「うん、正解」
「よく考えれば簡単だったね」
「すみれちゃんは、お母さん似、だから」
「それいつも言われる」
「母さんも、よく言ってる」
「確かに」
「耳に……タコ」
「あはは」
耳の近くに両手を上げ、指をもじゃもじゃと動かした琉生兄に笑いが込み上げる。指でタコの八本足を表しているらしい。
「すみれちゃん、いい笑顔、よかった」
「え?」
「ずっと暗い顔してたから、心配してた」
そう言われてハッとする。ずっと笑顔でいたはずなのに、元気に振舞っていたはずなのに、全然できていなかったらしい。鏡の中の自分はちゃんと笑えていたように見えたけれど、自分しか騙せていなかった。琉生兄には敵わない。
「アレンジ、してあげるね」
「でももう出掛けないよ」
「これから、ご飯作るでしょう」
「でもご飯作るだけだし……」
「家の中でも、気分は大事。楽しくご飯作った方が美味しくなるし、右京兄さんも、きっと嬉しい」
「あ……」
いつもキッチンに立つとき、一緒に作る京兄の気持ちを考えたことがなかった。辛い気持ちに蓋をして笑って誤魔化して、なんとかご飯を作り終えると酷く疲れる。
「右京兄さん、すみれちゃんに、何も言えないから」
「……うん」
「何も言わないけど、本当は一番……心配してる」
「うん」
知っている。お兄ちゃんとそういう関係になったとき、何より心配してくれた京兄に「京兄は黙ってて」と言ってしまった。それから本当に京兄は何も言わなくなった。学校を休んでも、夕食作りを放棄しても、帰りがどんなに遅くても、何も。
「たまには、右京兄さんと、お話したら?」
「そう、だね」
「夕食作りの時はお話する?」
「うーん……料理の手順とかは」
最低限の会話しか覚えがない。学校はどうだったかと聞かれて、楽しかったよと必ず答える。これを作ってくださいとお願いされ、分かりましたと引き受ける。会話の形が決まっていた。
「はい、できた。どう?」
琉生兄がいつの間にかアレンジを終えていた。鏡を出して後ろを見せてくれる。夕食作りの邪魔にならないようアップにして、可愛い髪飾りまで付いていた。
「可愛い……」
「よかった」
「琉生兄、ありがとう」
「うん、あとは、可愛いエプロンをして……そうしたら絶対、楽しいと思う」
「……そうだね」
前にお兄ちゃんからプレゼントされた可愛いエプロン、汚れるともったいないからとあまり出番がなかったけれど今日は使おう。この髪とそのエプロンでキッチンに立つのを想像したらなんだからわくわくした。魔法がかかったみたいだ。
琉生兄の言う通り楽しい気持ちでご飯が作れたら、きっと普段よりもご飯が美味しいに違いない。そして京兄とも、今日はちゃんと話せるような気がした。