「誰と似てるの?」
「すみれちゃんは、誰に似てると思う?」
「うーん……」
年の離れたお兄ちゃん達ではなく、下の方の兄弟の誰かだろうと直感的に思ったが自信はなかった。答えられずにいると琉生兄がゆっくりと口を開く。
「じゃあ……ヒントね」
「お願いします」
「今から言う兄弟の中に、答えがあるから……」
「うん」
「まずは、昴くん。昂くんは……髪質も量も、ふつう」
「そうなんだ」
すば兄から始まったヒントに自分の勘は間違ってはいなかったのだと胸をなで下ろす。
「でも……野菜や海藻も食べないと、ダメ……お肉ばかりは、髪に良くない」
「すば兄はお肉好きだもんね」
「バランスよく、食べて欲しい」
「今度、すば兄に野菜たくさん食べてもらえるようなメニューにするね」
「うん……すみれちゃん、ありがとう」
すば兄は確かに兄弟の中でも一二を争うお肉好きだけれど、野菜も出されたら特に文句も言わずに食べるからそれほど問題だとは思っていなかった。でも琉生兄にとっては野菜不足らしい。
「次は祈織くん」
「いお兄の髪は柔らかそう」
「うん……そうなの、柔らかいのに、しなやかで生き生きしていて……完璧」
「琉生兄ベタ褒めだね」
「うん、なかなか祈織くんみたいな髪質の人、いない」
「さすがいお兄……」
いお兄は兄弟の中でも抜群に顔立ちが整っている上に(お母さん曰く最高傑作らしい)勉強もできて優しくて、髪質まで良いなんてどこまで完璧なのだろう。
「次はゆーちゃん?」
「うん、侑介くんは……量は多めで、質はふつう。あと何気に、兄弟の中で一番……アレンジ上手」
「毎日三つ編みしてるもんね」
「そう、毎日……えらい」
「わたしもね、たまに頼んでるよ」
「侑介くん、やってくれる?」
「基本的には嫌がられるから、あまり頼めないけど……気が向いたときにやってくれるよ」
「そうなんだね、多分、嫌がっているわけではないと思う……」
「そうかな」
「うん、侑介くんは……照れ屋さん、だから」
三つ編みや編み込みをして欲しいと頼むと、なんだかんだ言いながらもやってくれるゆーちゃん。いつもの不器用な言動とは結び付かないほど髪を触ってくれるときの指先は優しい。それが好きでつい頼んでしまう。
「ふーちゃんは?」
「風斗くんも、祈織くんと似ていていい髪質。柔らかめだけど、毎日巻いても痛まないし……嬉しい」
「お仕事に向いてる髪質なんだね」
「そう、ぴったりだと思う」
「アイドル髪質かあ」
「……あ」
「?」
一瞬琉生兄が固まってどうしたのかと思ったら、小さな独り言が耳に入ってきた。
「風斗くん、今度……パーマ、かけさせて欲しい……」
その呟きに思わずにやけてしまいそうになるのを堪える。ふーちゃんは琉生兄に甘えて色々頼むけれど、琉生兄は琉生兄でふーちゃんの髪をいじれるのが本当に楽しいみたいだ。
「最後は……弥ちゃん」
「わたちゃんの髪も柔らかいよね」
「そう。それで、くるくるにすると……とっても可愛い。でも最近は、嫌がられる」
「わたしも。結んであげようとすると嫌がられちゃう」
「可愛いのに……」
「可愛いのにね」
言葉が重なって思わず笑い合う。小さい頃は一緒に女の子の格好をさせられてきたわたちゃんは、最近嫌がるようになった。当たり前といえば当たり前なのだけれど、少し寂しい。
「それで、すみれちゃん、誰だと思う?」
「あ……そっか、誰かと似てるんだよね」
「うん、結構みんな髪質が似ているから……難しいと思うけど」
「うーん……」
自分は誰と髪質が似ているのだろう。ヒントを元に考えてみる。下の兄弟は割とみんな猫っ毛気味で、例に漏れずわたしも同じような髪質だ。一人を絞るのは難しい。しばらく考えて結局、最後まで自信を持てる答えが出せそうになかったから直感で当ててみることにした。
すば兄
いお兄
ゆーちゃん
ふーちゃん
わたちゃん
琉生兄