「似てるって……お兄ちゃんに?」
「うん」
「誰に似てるの?」
「すみれちゃんは、誰に似てると思う?」
「え……」
質問に質問で返されて困ってしまう。小さい頃はお兄ちゃんとお風呂で洗いっこなんてしたけれど、今はそんなこともしないし髪を触る機会もあまりない。お兄ちゃんたちがどんな髪質かなんて分からなかった。
「うーん……分からないよ」
「じゃあ、ヒント……一人一人言っていくね」
「うん」
「まず雅臣兄さんは……寝癖を酷いのを、ちゃんと直して出掛けて欲しい……怒ってるのに全然、改善しない」
「それ髪質……?」
「あ……髪質は、柔らかくて、量は多め」
「なるほど」
寝癖が許せないらしい琉生兄は怒っているのかいないのか分からないほど穏やかな口調でダメ出しをして、雅兄の髪質を教えてくれた。
「次は右京兄さん」
「京兄はいつも同じ髪型だよね」
「……分け目、変えた方がいいと思う」
「あー……」
「髪質は柔らかくて、量は普通」
「そうなんだ」
あまり見ないけれど、普段きっちりと固めている京兄が髪を下ろすと確かに柔らかい髪質なのが分かる。それに一番お母さんに顔が似ている京兄は、髪質もきっと母親似のはずだ。小さい頃、わたしはお母さんの柔らかい髪を触るのが好きだった。
「要兄さんは……多くて、かたい」
「確かにそうかも」
「分かる?」
「うん、チクチクする時があって」
「髭じゃなくて?」
「髭じゃないよ、お風呂上がりのかな兄にくっつかれると」
「すみれちゃんの肌に……要兄さんの髪が触れるの?」
「えっ……あ、ほ、頬とかに! ほら、かな兄、ベタベタしてくるから……」
「そっか」
「あ、次、ひか兄は?」
「光兄さんは……」
とんでもないことを口走ってしまったと気付いてからでは遅い。慌てて次のお兄ちゃんの名前を出して取り繕うと、琉生兄は何事もなかったように話を進めてくれるのでありがたかった。
「光兄さんは、髪長いけど、綺麗に伸ばしていて……いい髪質」
「うん、いつ見ても綺麗だなって思う」
「でも毛先がちょっと……乾燥気味。今度帰ってきたとき、トリートメント、してあげたい」
「ひか兄、きっと喜ぶね」
「うん……喜んでくれるといいな」
「喜ぶよ、だって琉生兄の手は魔法だもん」
「……ありがとう、すみれちゃん」
そう言って琉生兄はわたしの髪を触る。触るというよりも頭を撫でるという方が正しいかもしれない。気持ち良さに思わず目を閉じると、琉生兄が微笑む気配がした。
「次は、椿兄さんと梓兄さん」
「二人の髪質は同じ?」
「そうだね。一卵性だから……二人とも髪質はかためで、量は普通」
「なつ兄は?」
「棗兄さんは……ちょっと違う。二人よりも少し柔らかめ」
「そうなんだ」
「今言った兄弟の中に、似てる人がいるんだけど……すみれちゃんは、誰に髪質が似てると思う?」
目を閉じたままで考えてみる。わたしは誰に髪質が似ているのだろう。頭の中にお兄ちゃん達の顔が浮かんでは消えていき、その中にふと思い当たるお兄ちゃんがいて瞼を開けた。
雅兄
京兄
かな兄
ひか兄
つば兄、あず兄
なつ兄