「すみれちゃんの髪、綺麗」
「そうかな」
琉生兄に髪を乾かしてもらい、丁寧にブラッシングをされ、時間がゆっくりと流れていく。この前琉生兄の誕生日にケーキを作ったら、お礼に髪をケアしてくれると言うので思わず甘えてしまった。
「うん……ずっと触っていたくなる」
「わたしも琉生兄にずっと触ってもらいたいな」
「本当……? すごく、嬉しい」
「琉生兄に髪やってもらうとね、気持ち良くて」
「よかった」
琉生兄の手はリラックス効果がある魔法の手だと思う。疲れが取れて元気になって、明日も頑張ろうという気持ちになる。
「すみれちゃん、最近……何か、悩みはない?」
「悩み? 特にはないよ」
「それならいいけど……」
「どうして?」
「髪、綺麗だけど、ちょっと元気ない……かも」
「……あ」
心当たりはあった。激しくお兄ちゃんに抱かれた次の日、髪が絡まって痛んでいる気がする。でも疲れてしまって髪まで手が回らない。突発的にお泊まりになるから琉生兄にもらったシャンプーを毎日は使えないし、教えてもらった通りにケアができないことも多い。
「琉生兄に教えてもらった通りやってない日もあって……ごめんなさい」
「ううん、謝らないで。怒ってるわけじゃなくて……無理しないでねって、言いたかった」
「うん……」
「それに、今日ちゃんとケアしたから、大丈夫」
「琉生兄ありがとう」
「どういたしまして」
鏡越しで目が合うと琉生兄はにっこりと微笑んだ。笑い返すとさらに柔らかい表情になる。琉生兄は優しくおっとりしているように見えて、実は鋭いのだとここ数年で感じていた。
基本的には何も聞かずにただ見守っていてくれるけれど、たまに髪を触らせて欲しいと少し強引にお願いされる日がある。そういうときは大体、わたしの心と身体が疲れ切って限界に達しているのに自分でも気付いていないときだった。
「……すみれちゃん、髪」
「うん?」
口を開いた琉生兄に、また何か見透かされているのではないかと少しドキドキしながら相槌を打つと予想外の言葉が返ってくる。
「似てる……」
「似てる?」
「うん、髪質とか……」
「髪質?」
「やっぱり……兄妹、だね」
髪を一束持ち上げて、まじまじと眺めながら琉生兄は言った。要はわたしの髪質が兄弟の誰かに似ているということだろうか。誰だろう、と考えてみたけれど漠然とした答えしか浮かばなかった。
もしかして上のお兄ちゃんに似ているのかも?
もしかして下の兄弟と似ているのかも?