コウモリ傘 窓から外を覗いた時は、今にも雨が降り出しそうな曇り空だった。 憂鬱だなあ。梅雨は明けたはずなのに。 じめじめした空気のせいもあるのか、ないのか、気分がすこぶる落ちていた。考えても仕方がないことばかりぐるぐる頭の中を巡って、気持ちがはや足で落ちていく。 学校を出ると雨が降っていた。やはり。学校にストックしておいた100円の小さなビニール傘を持ってきて正解だった。 帰って寝よう。そう思いながら、校門へ向かうとビニール傘越しに、見慣れた深緑のジャケットが目に入った。黒い傘をさしてぼんやりとどこかを見る彼は誰かを待っているらしかった。 今日は任務なのだろうか。同じ組織の人間としてここは知らないひとのふりをするべきなのだろうな、と顔うつむかせてゆっくり彼の横を通り過ぎた。 「刹那」 すれ違った瞬間静かに名前を呼ばれ反射的に振り返る。 「…黒。どうしたの?」 「どうもしない。お前を迎えにきただけだ」 「……」 「お前の傘は……」 そう言って黒が、自分の持っていった傘を私に差し出すのと同時に私の手から傘を奪った。 「……?」 黒は私から取った傘を次の瞬間思いっきり振り上げた。 バシン! 空気の抵抗に耐えられなかった傘は、思いっきり反り返った。 「え!?」 「お前の傘は壊れてる。こっちに入れ」 そう真剣な顔をして言う黒に、壊したのお前だろなんてツッコミはできなかった。 近くのごみ箱に私の傘を突き刺して、帰るぞ。と言って、黒は傘を手にして歩き始めた。 100均の傘よりは大きいが、男と女が一緒に入るには傘は小さい。身長の差もあって黒が気をつかって私の方に傘を傾けてくれていることもあって黒のジャケットは濃い深緑のシミをつくっていた。 「もっとこっちに寄れ」 「もっと、って…」 寄るところなんてない。これ以上寄ったら黒が傘からはみ出るしかないじゃないかと、戸惑っていると、黒が傘を持ち変えて私の肩を抱れた。黒にぴったりとくっついて歩きにくい。黒はもっと歩きにくいはず。 「……俺がいる」 「ん?」 「そう暗い顔をするな」 「…してないよ」 「そうか。」 「うん。傘壊れたから少し悲しかっただけ」 「あの安い傘か。残念だったな」 「あ。100均。寄っても良い?」 「…新しい傘は買わなくていい。いつも俺が迎えに行く」 「それって、わたしも黒も不便だよ。毎回黒が濡れて風邪ひくのも嫌。ちょっと買ってくる」 「…………」 「お待たせ。帰ろう」 「……」 「え?」 バシン! ← |