風邪をひく黒




「…どこに行く?」


近くのコンビニに行こうと玄関に向かうと、黒に手を捕まれた。

心なしか、黒の手が熱い。


「コンビニだけど?」
「……行くな」
「え?」


黒が小さく言うと、正面から抱きしめられる。

いつもと違う黒にどうしていいのかわからくてあたふたする。


「刹那ここにいろ」
「…そこのコンビニに行くだけだよ?」
「行くな、刹那、そばにいろ…」
「えっ?ちょっと黒!?」


うわ言のように、「行くな」と言いながら黒がだんだん私に寄りかかってくる。

いくら細身の黒でも支えきることはできなくて、黒をかばいながらゆっくりと畳に倒れた。


「お、重い…」
「……」
「黒?」


反応のない黒の顔を見ると頬が赤く、すこし汗ばんでいた。

まさかと思っておでこに手をあててみると、熱い。



やっとの思いで黒の下から抜け出して、布団に寝かせる。


「何か欲しいものある?」
「…ない。」
「そっか。じゃあ、薬となにか適当に買ってくるね。」
「薬もいらない。お前がここにいてくれればそれで良い。」風邪薬は必要だろうと思ったけど、黒が私の手を握って離そうとしないからどこにも行けない。

はぁと溜め息をついて、薬を買いに行くのを諦めて大人しく黒の傍に腰をおろした。


「寒い…」
「寒い?もう1枚布団持ってこようか?」
「……お前がここに入ればいいだろ。」


私の手を引きながら、黒が力なく笑う。


「風邪うつるから嫌」
「大丈夫だ。お前はバカだから風邪はひかない」
「…なっ!」
「もし、ひいたとしたらその時は俺が付きっきりで看病してやる」
「…お粥作ってくれる?」
「当たり前だ」
「……うーん、」
「いいから、」


黒に引っ張られるまま、布団に入る。黒の体温で温まった布団が、心地良い。



「刹那は抱き心地が良いな。柔らかくて」
「……風邪悪化しろ」





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