年中冷え性




そろそろ、と思っていると予想通り携帯が振動し、一通のメールが届いた。


【ジャンプ買った?】


つぐみからこのメールが来るのは、ジャンプ発売日の夜によくあることで。

【うん】と簡素に打ち込み、送信ボタンを押した瞬間、家のチャイムが鳴った。


「こんばんはー」


玄関に顔を出すと、想像通りつぐみがいた。風呂あがりなのか、髪が濡れたままで。
こんなんで、本当に年上なのか疑いたくなるけど、実際に彼女は中3なのだからため息が出る。
アメリカから帰ってきた当初はこんなんだし、同い年かと思って呼び捨てにしてたけど、本当は先輩だと気がついたのはしばらく後で。
今さら先輩付けするのも、なんかムズ痒いし彼女も何も言わないから呼び捨てのまま呼んでる。


「早すぎ」
「そりゃ、斜め向かいに住んでますから。これはほんの気持ちです」

と冷えたファンタを2本差し出される。オヤジに見つかるとまたつぐみに絡んできてうるさいから、ファンタを受け取りさっさと部屋へ上げた。


「髪くらい乾かしてからきなよ。」
「はやく読みたかったから、ついね」


まあそのうち乾くでしょう!と彼女は気にもせず、当たり前のごとく俺のベッドの上でジャンプを読み始める。

小さくため息をついて、タオルを引っ張り出し彼女の後ろに座る。これからなにをされるのかわかった彼女は「いつもすみませんねえ」と漫画に集中して、心がこもってないであろう言葉を俺に向けた。

嬉しくもないけれど、ここ最近は髪をふくのに慣れてしまってきている。髪をタオルで擦るたびに香る自分とは違うシャンプーの良い香りがして、意外と嫌じゃないのがまた嫌だ。

少し手を止めてふぅと溜め息をつくと、つぐみがこっちを向いた。


「なに?」
「もっと優しくふいて。頭が揺れて見えない。」
「…ふーん、こう?」


思いっきり髪をぐしゃぐしゃにしてつぐみの頭を揺さぶる。


「うわああ、ちょ、す、ストッププ…」
「それ誰のジャンプだと思ってんの?」
「り、リョーマあああうああああ」
「誰がアンタの髪ふいてんの?」
「リョーマさあああんででです」
「俺に言うことある?」
「すすすすみませんでしたああ」


別に怒ったわけじゃないけどね。

ひっきりなしに動かしていた手を止めると、髪はだいぶ乾いて、見事にボサボサになっている。そんなことも気にせずつぐみはジャンプをまた読み始めた。その集中力勉強に使えばいいのにとは心の中だけで言っておく。



「俺風呂はいってくる」
「ん、いってらっしゃい」









風呂をあがると、つぐみが俺のベットを占領して寝ていた。大の字になってお腹を出して、年頃とは思えない。あれ、コイツ年頃なんだっけ?
ただのバカなのか、俺の事を信用してるのか、無防備すぎるのか。ただのバカなのか。ただのバカなのか。

起こすのも面倒だ、つぐみの寝起きの悪さったらない。何度か階段から転げ落ちそうになって苦労したことを思い出す。コイツを放っておいて、俺は明日の朝練に備えて寝ることにした。
つぐみを奥に押しやって布団をかけて隣に寝るとつぐみ足の冷たさに、びっくりする。

はぁ、と何度目かわからないため息を吐いて人のベットに寝てるんだから俺の好きにしても良いんでしょ?とつぐみに話しかけると、もちろん返事はなくて。スースーと寝息をたてて気持ちよさそうに眠っているつぐみの頬を軽くつねると「うーん」と眉間にシワを寄せたから少し笑った。

「おやすみ」

そう呟いてつぐみの冷たい足に自分の足を絡めて目を瞑った。






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