その時はよろしく




ああ、痛い。


急いで帰ろうとしたら、自分の足に引っかかって転んでしまった。恥ずかしい。

転んだ拍子にカバンの中を派手にぶちまけてしまった。周りを見渡すと、誰もいない。誰かに見られなくて良かった。
何もなかったことにして、早く帰ろう。アニメ始まっちゃうからね。


「何してんの?」
「え?」


さっきまで周りに人がいなかったはずなのに後ろから声をかけられて、驚いた。おそるおそる振り返るとクラスメイトの越前くんが立っていた。


「…べっ、別に何もしてないよ」


なんてタイミングの悪い。地面に寝そべったままそっぽを向く。見なかったふりして早くどっかに行ってほしい。


「そ、」


越前くんは何事もなかったようにスタスタと私の横を通り過ぎて行った。

はは、手伝ってはくれないのね。転んだのを無視されるのも寂しいものがある。良いけどね。越前くんにとって私はただのクラスメイトだし。名前覚えられてるか微妙だし。

だけど、ちょっと胸が痛んだよ。




越前くんの背中を見ていると、越前くんが突然立ち止まった。


「?」


くるりと振り返って、何かを拾いながらこち らに向かってくる。

あれ?もしかして荷物拾ってくれてる?

ノートや教科書、鼻水をかんだティッシュまで拾い集めてぶっ飛んでいったカバンにつめてくれている。

あ、それは私の荷物じゃないよ。というかそれは枯葉だよ!

パンパンになった鞄を持って、越前くんが目の前に屈んだ。


「ほら、お手」


ふっと笑って私の目の前に手を差し出した。

犬扱いのような気がする。…まあいいか。越前くんの手をとると、力強く引っ張られた。


「おわっ、……ありがと」
「別に。道の真ん中に私物広げて、寝てる春田が邪魔だっただけ」
「すみませんでした。」
「ん、じゃあ帰るよ」


そう言って、私の手を引いて校門に向かって歩き出した。


「え?あ、一緒に?」
「なに?嫌なの?」
「こ、光栄です…」
「なら良いじゃん」
「……あ、あのさ、」
「なに?」
「手…」
「ああ。手離したらアンタまた転ぶでしょ」
「ないないない」
「あっそ」
「いでででで!強い!握る力がテニス部だから強すぎるよ!!」
「はは」





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