ぎこちない仁王姉弟




放課後の騒々しさが静まり、熱苦しい声が響き始めた。

部活始まってしまったのう。ヒリヒリと熱を持ち始めた頬を擦る。部活に行くか、行かずに明日怒られるか。悩んでみたものの、答えは初めから出ている。
真田からの渇を想像して憂鬱になりながら、テニスコートとは反対方向に足を動かした。



高等部校舎に入り、馴れた足取りでいつもの教室に向かう。探し人は学校に残っているという可能性はないが、まあいるじゃろうな。

教室を覗くと真ん中に姉貴だけがポツンと座っていた。想像通りで思わず小さく笑った。帰宅部のくせに、早よう帰りんしゃい。

扉を開けるが、こちらに気がつく気配はない。教室に入ると姉貴はイヤホンをして携帯を覗いているようだった。静かな教室にはイヤホンから漏れた音楽が微かに響いていた。

姉貴の隣の席に座ると、やっと気がついたようでキョトンとした顔でこちらをみてそれからイヤホンを外した。

机に頭を置いて姉貴を見上げると、姉貴は何かに気がついたようであ、っと小さく声をもらした。


「…どうしたの、その紅葉」


俺の顔を見た、姉貴の第一声がそれだった。そのあとクスクス笑いながら綺麗についてるね、と嬉々とした瞳でまじまじと見きた。
人の頬が赤く腫れていたらまず心配してくれるもんじゃろ?可愛い弟なら尚更。それなのに笑いよって!

姉貴も一発どうじゃ?とビンタの構えをすると、ノーサンキューとピースサインで返ってきた。ピースの使い方が見事に間違っとる。

遠慮しなさんな、そう言ってペチンと柔らかな頬にソフトビンタをすると、姉貴は痛い!弟にも殴られたことないのに!とどっかで聞いたことのある台詞を棒読みしていた。


「…痛い?」
「プリッ」
「冷そうか」


そう言ってハンカチをとって立ち上がろうとする姉貴の手を捕まえた。
その瞬間に姉貴の肩がピクリと動いて、俺の手から抜け出そうとした。が、その手を強引に腫れた頬にピタリとくっつけて俺の手と頬でサンドした。


「冷たくて気持ち良いナリ」


少し経つと、手の冷たさはなくなったがしばらく知らんぷりした。グッと近くなった距離感で姉貴を見つめても一向に解放されない左手に困ったように笑うだけで、視線は合わせようとはしなかった。





「帰るぜよ」


姉貴の手を握って、立ち上がる。引っ張られて姉貴も立ち上がり戸惑いながら鞄を手に取った。


「部活は?」
「病欠ナリ」
「明日怒られないかな」
「そしたら姉貴の控えめな胸で慰めてもうから大丈夫じゃき」
「はいはい、豊満な女の子捕まえて慰めてもらって」
「それも悪くはないが、姉貴のがええのう」
「…うるさい」
「痛、アッお姉様から頂く痛みは至極じゃ…!」
「シスコンのドMキャラやめて」
「ピヨ」



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