幸村とネジ 「君の背中にゼンマイがあって、それが僕にしか回せないとしたら」 君はどうする?なんて真剣に問う神の子は夕日に照らされて眩しい。ウザいくらいだ。 放課後、教室にいるのはひとつの机を挟んで座る日誌を書く私と幸村君だけだった。どうしてこうなったかと言うと、私と一緒に日直をするはずだった山田が病欠しやがったからである。 なにしてんだよ、山田覚えてろよ。 その結果名簿番号が山田の次の幸村君と一緒に日直をすることになってしまったのだ。カッコいい、人気者、テニス上手い、頭良い、儚い(?)、性格が良い(らしい)が揃った幸村とはどうしてもどうしてもどうしても (か、関わりたくねえー…) そう常々思いながら、慎重に学生生活を送っていたのだよ。触らぬ神に祟りなし、なのだ。山田君聞いているかい? 幸村君の質問に無視を決め込んでいる現在進行形で今も彼はウザ眩しい 笑顔をこちらに向けているのですが、残念ながら頭の悪い私には彼の質問の意図を察することはできません。 なんと答えるのが正解なの、わからないなら知らないふりすればいいじゃない?そう決め込んで手元の日誌に集中する(ふりをする)。幸村君の鋭い視線感じるけど。 「ねえ」 「…」 「刹那さん」 「…」 「刹那」 「ハ!ヒッ!(呼び捨て…?!)」 優しい口調ではあるものの、幾分か下がった声のトーンに全身の毛穴と言う毛穴が逆立ったのを感じた。体感温度は5度くらい下がりましたけど? ビビって変な声が出てここ笑うところですよ?と幸村君をみると幸村君は透き通って透き通りすぎて私が見えていないんじゃないかってくらいただ真っ直ぐこちらをみていた。怖いよ。 「質問に答えて、」 「…あーはい。」 「なにがはいなの。はぁ」 ねえ、バカなの?バカなの?と絶対零度の笑顔で2回も言われました、なにも2回も言わなくても。幸村君キャラこんなんだっけ? 「君はいつもそうだ、傍観者を決め込んで知らない振りをいつもする」 「すいません」 「別に謝れと言っている訳じゃないんだ、いくら僕だって気になる子にそんな態度されたら傷つくよってこと」 「すいません(ん?キニナルコ?)」 「僕が君みたいな子に傷つけられるなんておかしいよね?ムカつくよね?」 「(ムカつく???)はい、すみません」 「さっきからすいませんしか言ってないよ。なんとも思ってないくせに。少しでも悪いと思ってるならさっきの質問答えて」 「…ネジ巻きですか、えー幸村君に毎日お願いして回してもらいます」 「それは愉快だね」 幸村はアハハハと声を上げて笑った。笑いのツボが謎すぎるんですけど、怖いよ助けてよ山田。 「君には僕が必要だってことだね?」 「たとえ話の中ですけどね」 「まあ、たとえ話じゃなくても刹那がそのうち僕なしでは生きられなくなるだろうね」 「…五感を奪って熱烈な信者にでもするんですか」 「なにそれ、僕を何だと思ってるの。まあ、バカだからね、仕方がないね。つまり、」 「えっえっえ?」 ぱちん、と頬を幸村君の両手にホールドされ近づいてくる怖さに思いっきり目をつむった。 ふわりと自分以外の匂いがしたあとに、口元に柔らかい感触が。なんだこれ。ああ、キッスね、キッス。キッ スーーーーーーーんんんんん?! 「変な顔だね。アハハ」 「いや通常運行の顔ですけど。うう、ファーストキスが…」 「これからお僕のこと好きでたまらなくなるように侵食して色々奪っていくから覚悟していてね」 「その自信だけは見習いたいと思います」 「耳までピンクにしちゃって、可愛いね。もう一回したくなっちゃうな」 「やめて!私の守り続けた平和なスクールライフを壊これ以上壊さないでお願いします!」 「青春は止まらないよ」 「死者がでます!主に私!」 ← |