饒舌財前




放課後の図書委員の仕事があったのに遅れて図書室に入ることになってしまった。
今日のもう一人の係りは後輩の財前君だった。財前君はよく委員会をサボる、と委員会の中で噂なのだが私はまだすっぽかされていないのでタイミングがいいか、怖がられているか(多分違う)、破滅的に仕事ができないと思われてるか。今日もちゃんと来ているし、委員会をサボる財前君なんて想像出来ないなあ。
彼は先に来ていて少し遅れてきた私をちらっと一瞥しただけで、すぐ目線は本に戻された。
いつにも増して不機嫌そうに見えるが気のせいだろうか。

「遅れてごめんね」
「別に」

いそいそと荷物を置いて、返却された本を抱えた。
本の番号と本棚に並ぶ番号を照らし合わせながら、本を元の場所へ戻していく。
静かな図書室に財前君の声が響いた。

「ここに来る前に見ました」
「?何を?」
「先輩が告られてるの」
「…あー見てたの」
「見えただけっすけど」

カタン、と本が棚に当たる音と、財前君の声に耳を澄ます。誰もいない図書室は小さい声でもよく響いている。

「で、返事は?」

いつもならこちらから話しかける一方通行なのに、財前君意外とこういう話題に興味あるのかな。表情にはでないけどもしかして上機嫌とか?

「あー保留」
「保留とか、思わせ振りっすね」
「そういうの慣れてなくて、どうしたらいいのか」
「どう思ってんすか?そいつのこと」
「あんまり知らないんだよね…」
「え、じゃあ断れば良いだけの話っすよね」

はあ、と財前君のため息がしっかりと聞こえた。
そんなに飽きれてくれなくても…

「そうだよね」
「好きだって言われてその気になってんすか」
「好きって言ってくれる人なんて滅多にいないし、少しドキドキしたからなんだか断るのもちょっとって思ったんだよ。モテる財前君にはわからないと思うけど」
「……はあ、」

より一層大きなため息が聞こえた。ガタンと本を置く音が響いた後に、スタスタと足音がこちらに近づいてくる。
え?なに?怒らせた?え?なんで?

どんどん近づいてくる財前君にオロオロするしかなくて、ついには壁に追いやられて財前君が至近距離で見えた。肩をしっかりと捕まれていて動きようがない。この距離だと下手に動けないんだけどね。
パチパチと瞬きする音が聞こえてきそうなくらい近いんですけど?!


「刹那先輩…?」

わざとらしく耳元でゆっくりと吐息を出しながら私の名前を呼んだ。背筋にピリピリと電気のようなものが走って、目に涙が浮かぶ。
私の反応を見て愉快そうな財前君が視界の端に映る。ちゃんとは見れない、近すぎるから。
なんなんだよ、中2のくせに…

「今の気持ちは?」
「…心臓が止まりそうです…ギブ…」
「さっきの思い出して」

フッと息を吐いて、私の左手に財前君の右手を絡ませた。されるがまま状態とはこの事である。

「ききき気の迷いでした…」
「でしょ、浮かれすぎですわ」
「はい、浮かれてすみませんでした」
「今すぐ断ってきて」
「今すぐ?!」
「あたり前やないすか、今でもソイツ先輩からOK貰えると思ってニヤニヤしとるんですよ。可哀想なんではやくとどめを刺してきてください。それともずっとこのままがいいんすか、ハハ」
「NO!今すぐ行ってきます!」

財前君の捕獲から解放されて、ファイティングポーズをとり十分な距離をとった。財前君は相変わらず愉快そうな顔をしていた。


「一人で作業だるいんで休んで待ってます、はよ帰ってきてください。あとその顔、人に見せられるような顔じゃないんでいつもの変な顔に戻してから行って下さい」
「もう戻ってきません、サラバ」
「ここにあるカバンはどうなってもええんですか」
「キエエ」



(「委員長委員長委員長財前君とのペアにしないでください。」「お前以外だと来ないんだよアイツ」「その分私が活動するので」「それは先生に俺が怒られる。これからも財前よろしくな」「キエエ」)


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