死にたがりと財前




4時間目が始まった時間、屋上へ出る扉を開けると心地よい風が髪の毛を揺らした。

もちろん誰もいないくて、大の字に寝転がって空を仰いでみると少し眩しい。日陰の方へゴロゴロ転がって移動すると見事にスカートがぐしゃぐしゃになった。誰もいないからまあいっか。シャボン玉持ってくればよかったな…。
青い空を見眺めて、ボーッとしていると遠くに体育で盛り上がる同級生の声や、合唱が聞こえてくる。



「はあ、死にたい」

目をつむって、ため息混じりに独り言を呟いた。友人と呼んでいる人達が聞いたら怒られるんだろうな、まあ独り言くらい許してね。どうせ死にたがりのかまってちゃんみたいなものなんだから。

痛い思いをして死にたいと言うわけではなく、すぅと消えてしまいたい。最初からいなかったみたいに。


「ええんとちゃいます」


まさかの、返事が、しかもOKサインで返ってきたことに、驚いて目を開ける。いつの間にか誰かが私を見下ろしていた。逆光でよくわからない。


「え???まさか…?神か…」
「…死んでもノリツッコミなんてしませんけど」


その声は、と確信して隣に腰を下ろして座ったのはやっぱり財前だった。


「授業中だぞ、義務教育なめんな」
「先輩がこんなんなんで、しゃーないっすわ」
「いいんだよ、私は」


少し怒っているような気がしたけど、いつもの無表情かもしれない表情だったからこれが通常運行だきっと。
財前はいつも眩しい、いつもダルそうに全てを諦めたような顔してながらも意外としっかり芯が通ってて格好いいなクソ。私には何もないすべてが空っぽ。全部が無意味で空回りなのだ。


「今も?」
「今?」
「今こうしている時も先輩の頭は空っぽなんすか」
「そうだな、うーん」


財前もゴロンと横になって、首をこちらに向けた。意外と顔が近くてギョッとしたがここは先輩風を吹かせて冷静に、でも目を合わせてられないから視線を空にやった。

あーやばいな今とても青春っぽくてすきかもしれない、少しの安らぎと照れと隣の財前君はキラキラしていて。



「じゃあ、センパイ一回死んで」
「え?うぐっ」


今の流れを無視して、返す言葉に困っていると財前が馬乗りになって首に手を置いた。容赦なく腹の上にのった財前の体重が苦しい。


「あんたが捨てた人生、俺がもらいます。返してっていってもアンタもう死んでるんで、遅いですからどうなっても文句言わんといて下さいね」


目を細めて財前が笑った。笑うと破滅的に可愛いな、私の首に伸びてきた腕になんだか笑ってしまった。


「なんか財前の笑う顔が可愛くて幸せなんですけど」
「気のせい」
「気のせい、か」
「刹那先輩、俺に貰われる覚悟はいいっすか」
「プロポーズに聞こえる」
「気のせい」
「気のせい、か」
「死んで下さい」
「はい」


首に少しだけ込められた力はすぐ弱まって、鼻にチュッと柔らかいものが押し当てられた。何が起こったかなんてすぐ想像できてしまって、想像力がなければ顔を赤くして笑われずにすんだのに。


「刹那」
「なななに?呼び捨て?」
「もう先輩もクソもなくなったんで」
「クソも??」



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