☆→sideヤス



ヤス
「ん!?」

夏樹
「あっ!」


 突然、部屋に響いた着信音に驚いて身体が跳ねた。

 おかげで、せっかく手当してもらっている最中だった右手の包帯が外れてしまった。


ヤス
「あ・・・ご、ごめん」

夏樹
「う、うん」


 先ほどの自分の行動が幻だったかのように、そっと触れ合っていた互いの手さえ、未だ気恥ずかしくてぎこちない。

 はっきりと何かを決めたのかと聞かれたら、さっきのあの瞬間から、俺と夏樹は付き合い始めた筈なのだけど・・・。

 友達としての時間が長かったからなのか、いざそういう関係になると妙に意識してしまう。これではまた司に笑われてしまうんじゃないだろうか。


 傍らで騒いでいた携帯電話は、一瞬音が途切れたかと思ったが、またすぐに鳴り出した。

 不慣れな左手でどうにか手繰り寄せて電話に出れば、耳に響く呑気な声。やっぱり司だ。



『ヤスくぅ〜ん、さっきはごめんねぇ〜?』

ヤス
「・・・なんだよ」


『わ。やっべ、まだ怒ってる』

???
『アンタを殴るくらいだもん。そりゃそうでしょうよ』

ヤス
「?」

夏樹
「・・・どうしたの?」

ヤス
「あ、うん」


 司と一緒に居るらしき、聞き覚えのある声に少し戸惑った。これを今、夏樹に言ってもいいのだろうか。

 右手の怪我の理由は話していないから、この状況を説明するのは難しい。

 此方の困惑などお構いなし。向こう側では、二人がなにやら漫才のように煩く会話しているから、これまでの経緯が夏樹に伝わってしまうんじゃないかとハラハラしてしまう。

 それにしても司のヤツ。わざわざ電話してきておいて、いったい何なんだろうか。


ヤス
「!」


 戸惑っていると突然、左肩にかかる黒髪が視界に映った。


夏樹
「・・・司くん、と・・・ユウちゃん?」


 俺の左手の携帯電話に耳を近づけて、その相手を夏樹が探っている。

 意識が電話の向こうに行ってしまったからなのか、事も無げに縮まったその距離が心臓に悪い。


夏樹
「・・・?」

ヤス
「ちょ、司?そっちで盛り上がってるなら切るよ?」


 堪らず司を呼び戻す。



『あ、悪い。ひゃっひゃっヒートアップしちゃったぜー。懐かしいだろ?ユウちゃんの声ー』

ヤス
「お前いったいどういうつもりだよ」


『どういうつもりも何も、仲直りしようよ〜って電話?』

ヤス
「は?何言って・・・!」

夏樹
「司くん?」


 突然、会話に割って入ってきた夏樹は、俺から携帯電話を奪うと司に問いかけ始めた。




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