夏が過ぎて少し肌寒さを感じる季節。

 夕方間近の公園には、遊び終えて帰ろうとする子供たちの姿がチラホラ。

 少しするとその姿も無くなって、傾きかけた日の光で、わたしたち二人の影が伸びていく。


 先ほどの凍りついた空気のまま、会話は止まってしまっている。

 わたしから口を開いていいものか、でもいったい何を話せばいいのか見当もつかない。


ユウ
「・・・あのさ」

夏樹
「!」


 遠慮がちに、でも少し冷たさを含んで、ユウちゃんが口を開いた。


ユウ
「アンタとヤスって、今も全然付き合ってないんだってね」

夏樹
「・・・え?」

ユウ
「ちょっと、人づてに聞いたから」

夏樹
「・・・」

ユウ
「どうなの実際?」

夏樹
「・・・え・・・っと」

ユウ
「付き合ってるの?付き合ってないの?」

夏樹
「・・・」


 尋問のように投げかけられる言葉はとても刺々しく、彼女の顔を見上げれば、瞳は鋭く光っている。

 なんだか怖くて声が出せない。

 許されない事をした自覚はあるけれど、この恐ろしさに立ち向かう覚悟はできていなかったんだと今更気付いた。


ユウ
「何とか言いなよ。聞いてんだけど」

夏樹
「・・・う、あ、あの」

ユウ
「ってかさー、付き合ってないなら無いでハッキリ教えてくれてもいいじゃん。っていうかアタシら何のために別れたんだか。アンタのせいだからね」

夏樹
「・・・」

ユウ
「蒸し返すのも何だけどさ、よく友達面してられたよね。どんな神経してんの?大人しいフリして内心どんだけ黒いんだよ」

夏樹
「・・・」

ユウ
「ったく・・・もういいや。わかった。何も言わないわけね」

夏樹
「・・・」

ユウ
「悪いけど、ヤスは返してもらうから」

夏樹
「!」

ユウ
「アンタの返事なんか待たない。泥棒されたもん返してもらうのに断り入れる必要ないもんね」

夏樹
「・・・・ご」

ユウ
「・・・」

夏樹
「・・・ごめ」

ユウ
「は?なに今更謝ってんの?謝れば何でも許されるなんて思ってるわけ?」

夏樹
「・・・っ」

ユウ
「ふざけんなっつの。そんな甘っちょろい約束事なんか小学校で終わりなんだよ」

夏樹
「・・・ふ、う、でも・・・わ、たし」


 いつの間にか勝手に溢れていた涙。なんて卑怯なんだろう。自分が許せない。

 ユウちゃんが怒るのは当たり前だし、心当たりがあろうと無かろうと、疑われてしまった過去は取り消せない。そんなことは分り切っていることなのに、また涙に逃げるなんて最低だ。

 どんどん鋭さを増す彼女の言葉は、ひとつひとつ胸に刺さって、そこから見えない血を流しているような、ヒンヤリと冷たい感覚が広がっていく。

 友達だった。でも、それを壊したのは紛れも無く自分だ。

 許されるはずなどない事。わかっている。

 だったらわたしは、どうすれば・・・・・

















 泣きながら、自分が何を言ったのか。

 頭がグラグラしていたからほとんど覚えていないけれど、とにかく何度も謝った。

 謝って、自分の気持ちを全て伝えた筈だ。


 以前は友達だった筈の彼女は、気づいた時には消えていて。

 すっかり暮れた夕日を背に、わたしはただ、照らされた自分の影を見つめて立ち尽くしていた。




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