甘いカフェオレの入ったグラスが熱気で汗を滴らせる向こう側で、冷や汗をかいている姿が情けないやら可笑しいやら。

 何系なのか知らねーが、見た感じイケてる風の、コイツが通う私服OKの学校。

 夏樹の志望校が其処だと教えてやったのは他でもない俺だってのに。

 あれだけべったり一緒にいた中学時代の終わりと共に、別々の時間が多くなったわけだが、それもこれも全部、俺の気遣いだと何故気づかない?


 そういえば、コイツが夏樹に気があるってわかったのは何時だったか・・・。

 あの頃はまだ、夏樹は俺のモノだったから、随分前になるな。

 あれからどうしてるのかと思えば告ってもいねえとか、どんだけ草食だ。



「なーんだ。そろそろ一発くらいヤッてんだろとか思ってたのにな」

ヤス
「司!!」


「なに赤くなってんだよ。チェリーでもあるめーしお前。ふはっ」


 少なくとも月一回は会う約束を交わしている俺とヤス。

 こういう話題になったのだって一度や二度じゃない筈なんだが、向こうがこうも進展しないと損したような気になるのは何なんだろう。



「・・・」


 そういえば。

 俺は夏樹の何が良くて付き合ってたんだったっけ?



「なあ」

ヤス
「なに」


「夏樹ってどこがどう良いんだ?」

ヤス
「は?」


「お前はアイツのどこに惚れてんだよ?」

ヤス
「・・・どこって」


「ん?」

ヤス
「なんでそんなこと・・・付き合ってたことあるお前が聞くの?」


「俺がわかんねーから聞いてんだよ」

ヤス
「わ、わかんないって・・・」


「そう。なんでアレと付き合ったのか今まさに不思議に思ったから聞いてんの」

ヤス
「・・・」


「ほら。言えって」

ヤス
「・・・なんか・・・放っておけないっていうか」


「・・・」

ヤス
「放っておけなくて、いつも見てたら、目が離せなくなった・・・っていうか」


「・・・」


 ああ・・・そこか。


 そう言われてみれば確かに放っておけない。

 何故かいつも何も無いところで転ぶ鈍くささといい、人並み外れた飯
を食う速度の遅さといい。

 他人の何倍もテンポが遅いせいで、いつも面倒事を背負込まされる容量の悪さといい。

 トロい性格が災いしてからかわれて、虐められてはメソメソ泣いて。

 そうじゃなくても何かっつーとメソメソ泣いて。

 思い返せば何が良いのかわからねーけどな。つい、助けてやりたくなるんだよな。


 それが恋愛感情に繋がる理屈なんかわかんねーけど。確かにそうだ。


ヤス
「司に振られたって聞いたときも凄く泣いてて、どうしていいかわからなかったんだ」


「・・・」

ヤス
「でもそれで気づいた。あのまま離れたくないって・・・」


「・・・ふーん」

ヤス
「お前は違うの?」


「・・・いや。たぶん理由は同じだろうな。覚えてねーけど」


 コイツの言う《惚れた理由》以外に、何か在るとすれば身体の相性くらいか?とは言えねーな流石に。




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