ボックス内に響く司の歌声。

 相変わらず歌はイケてるけど、この声にいったい何人の女が騙されたのかとか考えるとまったく萌えない。

 っていうかなんだってこう、イケメン気取りの男ってのはどいつもこいつもあのマイクの持ち方なのか。そこがもう…アタシ的に無理だ。


(なんなんだアレ。暗黙のルールなのかな)


 今まで付き合ったどの男もそうだった。カッコいいと思ってるのかもしれないけど不自然だし、ぶっちゃけ冷める。


ユウ
「…」


 そういえば…唯一ヤスだけは、あの持ち方をしなかったっけ。

 自分が歌うよりもコチラの意思をいつも気遣ってくれてたし…ああいうのを優男というのかもしれないけど、カッコつけよりはマシだと思う。


(ヤス…元気かな…)


 ヤスとの恋愛期間は、アタシにとってどの思い出よりも綺麗で幸せな日々だった。

 別れた時はホント悲しかったな…今思えば…だけど。






「うーわっ、全然聴いてねーし。引くわー」


 なんとなく歌も聴き飽きて、ケータイのメールをチェックしていたら、それに気づいた司のマイク越しの声が響いてウンザリする。


ユウ
「下手くそー」


「うっせーツンデレ。つーかそろそろ時間か?延長する?」

ユウ
「まさかでしょ」


 司の言う通り、馬鹿デカい音に紛れてインターホンの音がする。

 ようやく司の歌とさよならできる時間ですか。それはいい。

 インターホンからの応対に返事をすると、そそくさと荷物を纏め、伝票を手にして部屋を出た。



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