両腕にのしかかる重さと、胸を締め付ける気持ちで、動けずに、廊下に立ち尽くしていた。



 考えちゃいけない。

 唇を噛み締め、溢れ出しそうな気持ちと、込み上げてくる涙を飲み込む。

 そして、麻痺したように固まって動かない足に力を入れる。

 ようやく一歩踏み出して、徐々に気持ちを落ち着けていくように前へ前へ…



 早く用事を済ませて、お弁当にしよう。

 考えたら止まってしまう。友達ならもっと楽にしていなきゃ。

 気づかれちゃダメなんだから…。

 わたしは今、資料を運ぶという単純な作業の真っ最中なのだと、必死に頭を切り替える。







夏樹
「!?」





 閑散とした廊下を数メートル進んだあたりで、突然フワリと重みが消える。

 驚いて、原因を探るように周囲を見回すと…



夏樹
「あ…!」

ヤス
「それも乗っけていいよ」



 ヤスだ…。

 もう終わったの…?



ヤス
「ほら…ちょうだい」


 わたしの手から、荷物の大半を奪い去り、更に上乗せしなさいと言うように両腕を差し出して促す仕草…。


夏樹
「!…っ」

ヤス
「ん?どした?」



 どした?…じゃないよ。

 今そんな風に優しくされたら、せっかく飲み込んだ涙が戻ってきちゃうじゃない…。



ヤス
「…大丈夫?」



 今にも泣きそうなわたしの顔を覗き込んで、心配そうな表情を浮かべているのが更にダメだ…。

 ちょっとつつけば涙が溢れ出すレベル。まさに決壊寸前…。

 思わず顔を背けると、ヤスも離れてくれた。



ヤス
「しっかしこんな重い荷物を女子に運ばせるとか信じられねーな。夏樹もさ、無理だー!って断んなきゃダメだよ」

夏樹
「……うん」



 取り繕うような明るい声に、ようやく声が出せた。







 嬉しいんだよ…。

 困っちゃうね…。


 わたしを助けてくれるのは何時でも、ヤスなんだよ…。




prev/next

←目次
←home

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -