「くじ引き?」
「うん。くじ引き」

気怠そうな声。時透君につられて前を見れば、担任が箱を抱え生徒達を見渡していた。どよめきが徐々に大きくなっていく。どうやら今年は委員会をくじ引きで決めるつもりらしい。

「はい。じゃあ座席順に前へ引きに来るように」

しかも廊下側から順番にって。窓際の端にいる私はどう足掻こうと最後になる。誰かが必ずその役目を担わなきゃならないにしろ若干の不平等さは感じるし正直嫌な予感しかしない。黒板に書き出された十数種類の委員会名を見渡しながら、誰にも聞こえないよう小さな溜息を吐く。

「せめて窓際席からだったらなぁ」
「まぁ、残り物には福があるっていうくらいだから」

そう言う時透君も隣の席だから引くのは大分最後らへん。なのにその発言は余裕だなぁなんて思いながらも、ひとり、また一人と前へ出ては一喜一憂する様子をぼんやりと眺める。頼むから体育委員だけは避けてほしい。運動神経悪いし、なにより皆の先頭に立って身体を動かすことなんて到底出来っこないから。どうせなるなら給食委員か図書委員がいい。そしてあわよくば、好きな人と二人揃って同じ委員会になれたなら。

「今何考えてたの」

そしたらまるで頭の中を読んでいたみたいにそう訊ねてきた時透君は、固まる私の顔を見てわざとらしく笑みを零してみせた。不意打ちなんて卑怯だ。一瞬言葉に詰まっちゃったじゃないか。

「あ……うん。変なのに当たったら嫌だなって」
「ふぅん……」

そして相変わらず素っ気ない返事。彼は委員会が何になろうが誰と一緒になろうがどうでもいいのだろうか。もしそうだとしたら自分の気持ちなんて永遠に伝えられっこない。ましてや同じ委員会になりたいだなんて知られようものならきっと鼻で笑われてしまう。そう思うと望み薄すぎてちょっぴり悲しくなってきた。でも――

「時透」

そうこうしているうちに名前が呼ばれ、時透君は席を立った。四つ折りにされた紙を一枚引いて、それを開きながら涼しい顔でこちらに戻って来る。クラスの女子達は時透君が何に当たったのか気になっているらしく、みんなソワソワと落ち着かない様子だ。でもそれは私も同じこと。緊張をぐっと抑えながらも、控え目に小さな小さな声で訊ねてみる。

「何だった?」
「図書委員。良くも悪くもないかな」
「図書委員かぁ。いいなぁ」
「そう?」

まさに私が希望していた通りの引き目。そんないいのが終盤まで残っているなんてラッキーだなぁなんて思いながらも、周りからの妬みの視線を咳払いで受け流してみせる。どうせ抜け駆けだとかそれ以上喋るなとか思われているんだろうけれどそんなの知ったことではない。だってこれは隣の席になった者の唯一の特権なんだから。恨むなら先生とクジと、その席を引いた自身を恨め。

「じゃあラスト、ななしの」
そしてついに自分の番がきた。選択肢はないにしろ不安とドキドキで胸が破裂しそう。でも向かおうとしたらすぐに止められ、その場にいろと指示された。先生の手には最後の紙があって、返事するよりも先にどんどん広げていってしまう。ちょっと待ってまだ心の準備が。そんな叫喚も虚しく、みんなの視線が一気に手元へと集中する。

「残り一枚だから言うぞ。ななしのは図書委員だ。頑張れよ」
「……!」

その瞬間、私は時透君と顔を見合わせた。そんなまさか、願いが二つまとめていっぺんに叶っちゃうなんて。こんな偶然ある? ものすごい確率じゃない? でもこれを知っているのは私達二人だけだから、ワーキャー騒ぎたいのをうんと堪え何食わぬ顔で着席する。誰にも悟られないよう、喜びをグッと噛み締めながら。そしたら時透君がいきなり横でとんでもないことを言い出すものだから、私は今度こそ、驚きをモロ顔に出してしまった。

「一緒がいいって祈ってたからかな」
「……えっ?」








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