平凡な毎日がいつまでも続くと思っていた。
安全で平和なこの城内で。こんなの、私が知ってるホグワーツじゃない。

スネイプが校長に成り代わってからというもの、例のあの人の赴くまま日々教育が為されていく。校庭に出ればディメンターがウヨウヨいて、反逆する生徒にはデスイーターが処罰を下す。一部の生徒達はスネイプに対し反抗心を見せているようだけど、正直、こんな生活を送るのはもう死ぬほどうんざりだった。愉しかったあの日々に戻れたらどんなにいいか。鬱陶しかったはずの授業中のあの悪戯でさえ、今じゃ恋しいとまで思ってしまっている。

「これからどうなるんだろう」
「心配か?」
「当たり前でしょ」

薄暗い廊下の隅。ランの隣で私は深い深い溜息を漏らす。ここならあまり人がやって来ないし、死角になっているから外からの監視を気にせず話す事ができる。一体どうしてこんなことになってしまったのか。今やスリザリンの生徒と関わりを持っているだけで怪訝な目を向けられる。皆が皆あの人を崇拝しているわけじゃないっていうのに。

「…こうやって話せるのも最後だったりして」
「ああ、お互い殺されちまうかもな」
「恐い事言わないで」
「別に脅してる訳じゃねぇよ」
「死んだら恨むからね」
「どっちかっつーとヤベェのはお前の方だろ」
「私?!私は絶対死なないから」

そう言うと上からは失笑が降ってくる。でも今は怒る気になんてなれず、私はただ静かに唇を噛み締めることしか出来なかった。こうやって二人きりで会話していると日々のあれこれが思い出されて胸が締め付けられる。愉しかったことも嫌な目に遭ったことも、今思えばみんな引っ括めてかけがえのない良い思い出だ。

「いっそ2人で逃げちまおうぜ」
「駄目だよ!そんなの。友達を置いて逃げられないもん」

「あっそ」と欠伸。本気か冗談かは分からない。まぁ厄介事を忌み嫌うランのことだから半分くらいは本気なのかも。ただそう思う一方で、今後もし争いが起きた場合そうしてたら良かったと思う瞬間がやって来るのかもしれないとちょっとだけ怖くなった。戦いの中で死ぬ可能性は十分にあるし、仮に私が生きていたとしても大切な人たちがいなくなってしまうことだってあり得る。そもそも自分が使える魔法なんて微々たるものだから、ちゃんとした戦力になれるのかどうかもよくわからない。そうやって憂事が浮かんではまた懸念が生まれ、頭の中が段々と不安や恐怖で入り乱れていく。

「も、もし私が死んだら…お父さんとお母さんにちゃんと伝えといてね」
「さっき死なねーっつったばっかじゃねぇか」
「だって…、やっぱり分からないし」

私がよほど強張った顔をしていたからか、ランの目からも揶揄いの色が消える。でもすぐに「バカ」と貶しては、頭を強く引っ叩いてきた。ムッとして肩を押し退けると、ランはまた鼻で笑う。…だけど、やっぱり私は黙ったまま唇を噛み締めることしか出来なかった。優しくされればされるだけ、目の前がぐらついて涙が零れてしまいそうになった。






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