魔法史の授業が始まって数分後。教室最後列の席にそっと腰を下ろした私は、誰にも気付かれないよう砂時計が付いたネックレスをこっそりブラウスに隠し入れた。何食わぬ顔でテキストを捲り、さもずっと前からここにいたかのように取り繕う。他にもどんな仕草をすれば場に馴染めるかは研究し尽くしていた、何せ“この時間”に授業を受けるのは本日3度目なんだから。

「(これでやっと最後…疲れた)」

自分が望んだ事とはいえ、神経を擦り減らしながら内緒で授業を受け続ける過酷さったら。日に日にくたびれていく精神はやがて顔面にも表れ始め、ついさっき友人にも不気味がられたところだ。そもそも何故こんな不可思議なことになっているのか、そのわけはおおよそ数週間前にさかのぼる。


『では、特別にこれをお渡ししましょう』
『いいんですか?!やった…!』

魔法薬のリサーチャーである父の研究を継承したい私は、その為にどうしても専攻しておかなければならない授業が3つも被っている事実を知りマクゴナガル先生に泣き付いた。なぜマクゴナガル先生なのかというと理由はただひとつ。以前ハーマイオニーが同じ理由で悩んでいた時、先生からとあるアイテムを借りたとこっそり教えてくれたから。ちなみにそのアイテムとは魔法省神秘部にある禁忌道具「逆転時計」のことで、余程成績優秀ならまだしも 本来私のような一生徒には一生手の届かない代物だ。なので最初その名を出した時はひどく驚かれたし、同時にちょっぴり怪しまれもした。もしやあの・・兄弟と何か良からぬことを企んでいるのでは?って。まさか。ひどすぎる。私はただ父の研究を引き継ぎたいと思ってるだけなのに。奴らといるとどうしてこうもろくなことが起きないんだろう。言うこと成すこと全て疑われるなんて心外にも程がある。でもそんな怒りを糧に必死で頼み込んでいるうち、痺れを切らした先生がついに使用を許可してくれた。

『ただし、絶対に破ってはならない条件が一つ。誰にも見られてはいけませんよ。見られたら未来の出来事はおろか、自分の身すらこの世に存在しない事態になり得るのですから』

「そんな事言われたら怖くて使えないじゃん…」

小さな呟きは教室の中に溶けた。浅い溜息を吐いてもう一度、ブラウスの中からネックレスを掬い取ってみる。チェーンの先にぶら下がるのは 輪の中に組み込まれた小さな小さな砂時計。一見どこにでも売ってるようなごく普通のアクセサリーなのに、こんなもののどこに時間を遡るだけの魔力が秘められてるんだろう。これで過去を変えられるのなら変えたいことなんていくらでもある。しかし不可分な関係とはまさにこの事で、使用すればするだけその分命懸けの危険が付き纏うから皆安易には手を出さないのだ。

「(…何やってるんだろ。間違えて回したら大変なのに)」

怖くなり慌ててブラウスの中に仕舞い込む。こういうちょっとした油断が悲劇を招くのだから、不必要な露出は出来るだけ避けるようにしないと。辺りを軽く見渡し、再び何食わぬ顔でテキストを捲る。そんな一連の行動をずっと見ていた人物がいたなんて、この時の私は1ミリも想像していなかった。






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