待ちに待った週末。ホグズミードへ向かった私達は、楽しみにしていたハニーデュークスへと足を運んだ。人気店というだけあって、中は既にホグワーツの生徒で溢れ返っている。

「あっ、見てあれ! 美味しそう」
「初めて見るね。新作かな? キャンディーみたい」

色とりどりのお菓子がずらりと並ぶ店内に胸が小躍りする。ここへはなかなか来られない分、見ているとついあれもこれも欲しくなってしまう。クランペットにブルブルマウス。どれも子供の頃食べたものばかりで懐かしいようなどこか切ないような。父が買ってきてくれたのをうっかりマグルの友達の前で食べちゃって気味悪がられた事なんかもあったっけ。あの時は本当に辛かったし傷付いた、今じゃいい思い出になっているけれど。なんて当時の思い出に浸りながら棚上のキャンディーへ手を伸ばした時、同じく左方から伸びてきた手とタイミングよくぶつかった。

「あ?」
「……ゲッ」

見上げると、眼鏡越しのリンドウと視線がかち合った。相手が私と分かった途端目付きを和らげたリンドウは、自分へ向けられた濁音付きの言葉に眉を顰めてみせる。かたや握られたキャンディーを奪おうと手を伸ばした私も、ヒョイとかわされて唇を尖らせた。

「何だよ。ゲッて」
「まさかリンドウがいるなんて思わないもん」
「それが何でゲ、なんだよ」
「ゲ、だからゲ、なの。もう終わり」

不満げな顔で見下ろしてくるリンドウ。そんな彼をひと睨みし棚から新たなキャンディーを取ろうと手を伸ばしたものの、今度はあろう事か背後から伸びてきた別の手に横取りされてしまった。またもや振り返ると、見慣れた三つ編みが目に映り嫌な予感がする。そして見上げた先にあったのは案の定、薄ら笑みを浮かべるランの顔だった。

「もーらい」
「……」

まぁリンドウがいるならこっちもいるか。そう諦めて頭上を通るキャンディーを奪おうと試みるものの、軽々かわされてまたもや撃沈する。棚の中はもう空っぽ。今のが最後の一本だった。そして彼らの手元には、気に入ったのを根こそぎ掴んだみたいな大量のお菓子がごっそり。なるほど、極端に少ない棚は彼らのせいか。さすが根っからのスリザリン。貪欲さがこんな所にまで滲み出ているなんて。二人の行動を見ていたら自然と腹の中に皮肉めいた感情が芽生えてきてしまう。

「何その量。悪戯専門店にしか興味ないのかと思ってた」
「オイオイ心外だなそりゃ」
「俺らがそんなイタズラばっかやってる馬鹿に見えんのか?」
「見える」
「あァ? もっかい言ってみ」

悪辣な目付きで囁いたランは、睨む私の頭を肘置きにして、毎度のことながらわざとらしく顔を覗き込ませてきた。いきなりかけられた重みに自身の身体が悲鳴をあげる。何とか抗おうと肘で胸を押したものの、奴は細いくせに一ミリたりとも動かない。いつもいつも馬鹿にしやがって。いい加減、こういう稚拙なことをするのは止めて欲しい。

「重い、重いって! 肘置きにしないで」
「ななこの頭がちょうどいい高さにあンのが悪い」
「何その理不尽な理由! ひどい!」
「うっせぇよバーカ。諦めろ」
「じゃあなー」

そう言ってやっと手が退けられたと思ったら、去り際に背中を強く叩かれて倒れ込みそうになった。地味に痛いし、こんなの女の子相手にやることじゃない。でも怒り声を上げる前に二人は、笑いながら奥へと消えていってしまう。


「何なの? 本当……」

最近の揶揄われようといったら、目に余るどころじゃ済まされないような気がする。授業中は勿論のこと、授業と授業の合間や廊下を歩いている時、大広間での食事中も。しかも直接的じゃなくて、遠巻きにとか、何か道具を使ってとか。例えばペットの猫をピクシーに変えられたり、夕食のスープを飲もうとしたら皿を浮かされて頭からぶっ掛けられたり。ご近所だし昔から悪戯はされていたけど、年齢を重ねる毎にそれは増していってるし、今じゃより多くの魔法を使えるようになっているからその分厄介な内容が増えたと思う。もう慣れっ子になって日常化してしまっているのがちょっぴり恐ろしくなるくらい。なんて、ぼんやりと考えていたら一部始終を陰で見ていた友達が急ぎ足で駆け寄ってきた。

「ねぇ、ななこって本当にあの二人と仲良いよね。特にラン君と」

興味津々な顔で訊ねてくる友達に内心戸惑いながらも、言われたことに対し思考を働かせてみる。しかしさっきの件といい悪戯の件といい、仲良くしているどころか苛められている光景しか浮かんでこず、必死に首を左右に振ってみせる。

「全っっ然、仲良くない」
「いや仲良いって。女子みんな羨ましがってるんだよ?」
「羨ましい? 私は苛められてるだけなんだけど」
「嘘だ。だってさっきのあれは何? 超ボディタッチ。あんなのななこにやってるのしか見たことないよ」
「あれはボディタッチって言わない。叩かれてるっていうの」
「本当に? そうは見えないけど」

傍から見たらそんな風に思われていたんだ。でも違うものは違う。授業中も休み時間も、いつだって彼らは急に現れては嫌がるようなことを平気でやってのける。特にラン。他の子にはやらないようなことをどうして私にだけしてくるんだろう。ただの嫌がらせか、それとも余程私のことが気に食わないのか。これまでされてきた数々の悪事を思い出し、深くて長い溜息を吐く。

「今度聞いてみようかな」
「え?」
「ううん……、何でもない」


―――でも。
空っぽになった棚を今、私はどんな気持ちで見ているんだろう。確かに少しは嫌だって思ってはいるけれど、じゃあ何でランの言動をハッキリと咎めようとしないのか。やっぱりやられ慣れているから? それとも何か別の理由があるから? その真意は未だ定かではない。そんな曖昧な気持ちのまま買い物をしていたからか、手に掴んだお菓子がまさかナメクジゼリーだったなんて、レジに持っていくまで私は一切気が付かなかった。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -