※カタカナ名の方がしっくりきます。


闇の魔術に対する防衛術の授業中、私の背中に軽い何かが当たった。見た先にあったのはぐしゃぐしゃに丸められた紙。これを誰かが私の背中目掛けて投げ付けたらしい。一体どこのどいつが。いや、こんな下衆い真似をしてくる奴に心当たりがあるとしたらあの二人しかいない。そうして斜め後ろの席へ顔を向けると案の定、ハイタニ兄弟と目が合った。

「(何なの……?)」

微笑を浮かべるリンドウに対し、ランはつまらなさそうに頬杖を突きながらその紙を見ろと顎指ししてくる。見て欲しいならもっと丁寧に寄越せと内心憤りつつも、私はスネイプ先生に見つからないようそれをこっそり拾い上げた。

「(?…何これ)」

 紙には目を疑う程に下っ手糞な絵が描かれていた。そしてその内容は箒に跨る私がドラゴンに喰われるという涙が出る程しょうもないもの。あまりのしょうもなさに呆れもう一度二人の方を振り返ると、あろう事か、遮るように背後に立っていたのは仏頂面でこちらを見下ろすスネイプ先生だった。

「授業も聞かずにお絵描きとは……。次の試験に余程自信があるらしい。後ろを振り返る暇があったらノートを録れ」

そう言われた直後、分厚いテキストで頭をひっ叩かれた。

「痛っ……!」

鈍い痛みに思わず頭を押さえる。そのまま先生が去っていき視界には二人の姿が映った。肩を震わせながら声も出さずに笑うリンドウと、満足そうに口元を緩めるラン。一体いつまでこんな幼稚な悪戯を仕掛ければ気が済むのだろうか。無性に腹が立ったので今に見てろよと中指を立ててみせたら、それを見ていた先生にまた頭を思いっ切り叩かれた。





「午後の授業どこだっけ?」
「飛行訓練だから中庭だよ」
「そっか、じゃあ……うっ」

他愛も無い話をしながら友達と廊下を歩いていると、背後からいきなり長い手が伸びてきた。その直後肩にずっしりと重みがかかり思わずよろけてしまったが間一髪セーフ。ハッと両サイドへ目を遣るとランとリンドウがこちらを揃って見下ろしていた。なんだかものすごく嫌な予感がする。どうせまた何か仕掛けるつもりなんだろうとスルーして足早に歩くと、何やら話があるらしい。彼らも負けじと後を付いてくる。そして、

「ちょーっとコイツ借りてくぜ」
「悪いねー」

二人に両肩を組まれた私は、抵抗も空しく連行されてしまう。

「ちょ、ちょっと! 重いから離してよ! 何の用?」
「嫌がんなって。別に苛めにきたワケじゃねぇよ」

そう言いながらリンドウは中指で眼鏡をクイッと直す。一方でランは頭一つ分小さい私をわざわざ背を丸めて覗き込んできた。一体どういうつもりだ。威嚇するように奴を睨み上げると、意外にもランは軽く笑みを返してくる。

「……何よ」
「次のクィディッチに選ばれた。応援しろよ」
「……へ? クィディッチ?」
「すげぇだろー」

思わず素っ頓狂な声が出た。選ばれた者だけが出場出来るクィディッチ。そのメンバーにまさかこの二人が選出されるとは。私は驚きのあまり開いた口が塞がらず、ランとリンドウを交互に見た。するとその反応に満足したらしい、二人はやっと肩から腕を退かしてくれた。

「ポジションは?」
「ビーターに決まってんだろ」
「だと思った!」

思わず笑みが溢れる。腐れ縁とはいえ、昔から付き合いのある二人がクィディッチに出るのが素直に嬉しかった。やることはいつも卑劣でまさにスリザリンの名に恥じない二人だけど、箒を乗りこなす腕だけは確かだと常々思っていたから。しかし、あれやこれやと聞いているうちにふと、二人のローブのフード裏のグリーンが目に映る。……だめだ。何よりも肝心なことを私は忘れてしまっていた。

「応援は出来ない」
「あ?」
「だってグリフィンドールなのにスリザリンを応援してたら、私ヤバい奴だと思われるじゃん」
「んな事分かってるって」
「だーかーら、こうやってわざわざオマエに言いに来てやってんだろ? 俺らにだけ分かるように応援してくれりゃいーじゃん」
「俺らにだけ分かるように? ……どうやって?」
「何か合図出せよ、合図」
「合図?」

するとランが再度私の肩に手を回し、先程と同じようにニヤリと笑みを零した。

「試合中、オマエの頭の上飛んでやるから手振って」
「て、手?」
「そ。見えるように振れよ」
「無理無理! 手なんて……第一、試合中そんな余裕ないでしょ」
「は? 俺らのことナメてんの? 余裕余裕ー」

何が余裕余裕だ。怪訝な表情を浮かべる私に対し、二人は手を振りながらとっとと去って行ってしまう。どうしよう。マズいよ。一人ぽつんと取り残された私はとんでもない約束をしてしまったと危惧し、その場にいた人が皆振り向く程大きな溜息をついた。
 





後日開催された寮対抗クィディッチ杯は、あろう事かグリフィンドール対スリザリンの対戦だった。しかもその結果、僅差でスリザリンが勝利を納めてしまい悲痛な胸中に肩を落とす。
だが、ランとリンドウのコンビネーションは敵ながら怖いくらい勘能だった。その愉(たの)し気でどこか余裕を感じさせる飛行はどうやらスリザリンの女子達の心を鷲掴みにしたようで、何処からともなく黄色い声援が飛んでいて正直胸糞悪くて堪らなかった。でも、何でそんなにも胸糞悪いのか、理由は自分でもよく分からない。そんな中、約束通り頭上を急旋回していくランとリンドウの二人。私はその二人に向かって、小さく小さく手を振るのだった。



※スニッチのアイコンはフリー素材から拝借しました.





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