未だに抱き締めるだけで顔が真っ赤になる君が可愛過ぎてどうしようもない、とか笑えるよね。

ぱちっと目を開けると窓から朝日が差し込んでいて、もう朝か、と寝返りをうつとはた、とした。寝る前まで腕の中に居た詩織が居なくなっている。
手洗いにでも行ったのかと目をもう一度閉じると寝室の扉の向こうからトン、トンと規則正しい包丁の音が聞こえた。
ああ、朝飯を作っているのか、と理解すると寝室にまで美味しそうな匂いがしている事に気付いた。

とすると、彼女は結構早くから起きて作っていたに違いない。
健気だなぁと思えば、顔が自然と笑みを作っているのが分かった。

彼女とこのマンションで暮らし始めてもう数年は経つが、この思いが褪せることはない。寧ろ日々強くなっていくばかりだ。
そんな風に思える存在と出会えたというのは、何億分の一の確立なんだろう?なんてらしくもない事を考えていれば、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「徹?起きてる?」と愛しい彼女の声が聞こえ「うん」と返せば、がちゃっと扉が開く音がして、とてとてとこちらにやって来ると詩織がベットの淵に腰を下ろした。

「良かった。もうそろそろ起きてもらわないと遅刻ぎりぎりになっちゃうって思ってて」
「そう」
「うん。あ、ご飯出来てるけど先にシャワー行く?今日ゼミあるんだよね?」
「いや、冷めない内に食べたいからシャワーは後でいいや」
「わかった。準備してくるね」

そういって立ち上がろうとした詩織の腕を掴み、引っ張れば詩織は「わっ!」と言いながら俺の胸の中に倒れこんできた。
なんなく受け止めて顔を見れば、林檎の様に真っ赤だった。それが余りに可愛くて、思わず笑みを零せば更に赤みが増して可愛い顔になった。

「もう!危ないじゃない!」
「ごめん、詩織が余りに可愛かったから」
「またそうやって」

照れ隠しなのか赤い顔のまま語尾を荒くして話す彼女をぎゅっと抱き締めると今度は黙り込んでしまった。

「愛してる」

腕の中で大人しくなった詩織の髪を掬い耳に掛け、耳元で囁けばこれ以上にない位詩織の顔が赤くなった。
腕を一旦放し彼女の顔を見れば金魚のように口をぱくぱくさせていた。

「顔、凄い事になってる」
「っ!誰の所為だとっ!」
「準備は俺がしとくから顔の熱が引いたらおいで」

ぽんぽんと頭を撫でてからベットから降りて扉の方に向った。
扉を開ける前一瞬だけ後ろを向けば詩織が身体をぷるぷると震わせていた。
髪の分け目からみえる項がまだ赤かったから思わずまた笑ってしまった。

寝室を出て、キッチンに向おうとすれば寝室の中からバコッと扉に何かがぶつかる音が聞こえ、すぐに「徹のばかっ!!!」と詩織の大きな声が聞こた。今度こそ耐えられなくなり、「ははっ!」と声に出して笑う。
大方、扉に向ってクッションでも投げたのだろうと分かっても笑いが中々収まってくれない。

詩織と一緒に居るようになってこれ程愛しい存在はいないと思っていたが、
それと同じ様に詩織以上に一緒にいて面白くて、楽しくて仕方のない人も居ないと思った。


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