「あ、只野。今日は及川と一緒じゃないの?」 「いや、いつも一緒にいるわけじゃないんだけども」 「ごめん。俺の中では二人でワンセットみたいな感じに既になっているから」 「お買い得商品みたいに言わないで下さい、お願いします。それと、私じゃなくて岩ちゃんのが一緒にいると思うよ」 そうなんだけどね?と苦笑いする花巻にため息が出る。二人でワンセットって・・・。そりゃ私たち付き合ってますよ?でも本当にずっと一緒にいる訳じゃないのですよ。一緒に帰るのだって徹の部活がない時だけだし、去年は同じクラスだったけど今は違うし。つか、付き合い始めたのも先月からだしね。 何か最近こんなやり取り増えたなぁとしみじみ思っていれば、「どうしよう」と無表情にも関わらず、声だけ深刻そうという器用な事をやってのける花巻の声が聞こえた。 「てっきり只野と一緒に居るものだとばかり」 「徹に何か用でも?」 「うん。とはいっても、俺じゃなくて監督が徹に用があるみたいで、放課後職員室に来てほしいみたいなんだよね」 「徹に会ったら伝えよっか?」 「本当?助かる」 ほっとした顔の花巻に「頼まれました」と言えば、薄く笑った花巻が「有り難う」とお辞儀をして教室に戻っていった。監督さんも人に頼まず自分で来ればいいのになぁ。ああでも忙しいのかな?なんて考えながら資料室に向かおうとすれば、前方からだるそーな雰囲気を出しながらこっちに向かってくる徹を発見した。 花巻のタイミングが悪かったな、今回は。 「徹、丁度いい所に!」 「何かよう?」 「え、なんでそんな機嫌悪いの?」 「呼び出し」 え、徹さん、何かやらかしちゃったんですか。まぁ華の思春期だし、色々あるんだろうけれども。そう思ってたのが顔に出ていたのか「違う」と頭を軽く叩かれてしまった。前々から思ってたけど、徹って周りに誰も居ない時って若干態度悪いよね。処世術が上手いというか世渡り上手というか、「皆さん及川徹に騙されてますよー!!」とたまに岩ちゃんと一緒に拡声器で叫んで回りたくなる時がある。あいや、でも岩ちゃんと二人でいる時とはまた違うんだよなぁ。ほんと今更だし、後が色々と怖いから出来ないけど。 「この前出た数学の課題出し忘れたんだよね」 「あー安部やんのか。それは災難だったねぇ」 安部やんは親しみ易いあだ名とは裏腹に、ねちねちと説教するタイプだからな。 特に徹は目につきやすい生徒だし、チェックされてるんだっけか。ご愁傷様です。 南無、と心の中で合掌していれば、「で?」と心底どうでもよさそうな目を向けられた。 ほんとお前私の前じゃ猫被らねぇな。 「そういう詩織はこんな所で何してんの?」 「今日日直なんだよね。資料取りに来ただけ」 ふぅん、頑張ってね。と言って職員室に行こうとする徹に花巻からの伝言を伝えるため「ちょい待ち!」と腕と掴んだ。 「だから何」 「花巻からの伝言。『監督が及川に用があるみたいだから、放課後職員室に行って』だって」 「それ、どっちかって言ったら監督からの伝言じゃない?」 「でも頼まれたのは花巻からだから間違ってはないよ」 了解、と言って薄っすらと笑う徹の顔は、何故か2人で居る時にしか見れないので『私だけにみせる笑顔』と勝手に自惚れている。 「そういや花巻が、私らの事『二人でワンセット』とか言ってたよ」 「まっきーが?」 「二人何時も一緒にいるイメージなんだって」 「悪い冗談だね。どっちかと言えば、俺、岩ちゃんと一緒にいることのが多いと思うんだけど」 心底嫌そうな顔して言うので「文句あるか」と肘鉄しようとすれば軽々と避けられてしまう。 「つか似たような事を前金田一にも言われた様な気がするんだけど」 「マジか」 「俺らって周りが言うほど一緒にいないのにね」 「だね、なんでだろ」 まぁ確かに徹とは恋人以前に幼馴染という間柄でもあるからもう何年も一緒にいるし、傍にいるのが異様にしっくりくるのは事実だけれども。 けれど、なんかこう、青春!みたいなキラキラピチピチ感がないような気が、いや、気がする所の騒ぎじゃない。まったくないな。 ちょ、私ら枯れすぎてやしませんか。 「なんかこう、若さが欲しくなりました」 「俺はまだまだ若いから。老けてんのは詩織だけでしょ」 「いやいや、その私と付き合ってる時点で及川君も若年寄ですよ」 「なら別れるとしますか」 「おうおう、そしたらもっといい男とっ捕まえて自慢しに行ってやる」 「そんな男実際にいる?」 「居ないだろうねー」 なんやかんやで私にとっては徹が一番格好良く映るからなーと言えば、徹は「はぁ?」みかいな顔をしてから私から離れ一人職員室に行ってしまった。 まぁでも去り際に「俺だって詩織が一番可愛く見えてるよ」と滅多に私の前じゃみせてくれないデレが見れて、人前に出られない位には顔がにやけてしまった。徹が居なくなって本当によかった。 小さくなる徹の後姿をみながら、ふっと昔を思い出した。 古い付き合いで、ちゃんと付き合ってみても初々しさなんか微塵もなくて、でも昔っから私達はお互いが空気のようになければならない存在だったなぁと今更ながらに思って、笑ってしまった。 ―――――――――――― 前サイトのリメイク作品 岩ちゃんは二人のお母ちゃんになってそう。岩ちゃんの彼女がそれをほほえましく見てればいい。 |