しんしんと静かに雪が降る中で、はぁっと悴んだ手に息を吹きかけ暖をとる。
天気予報でも夕方から雪と言っていたのに手袋を忘れるなんてどうかしていた。
今朝は別に急いでいたわけではないに。

今日は部活が休みという事で一緒に帰る約束をしていたのだが、急に委員会の仕事が入ったようで「ごめん。先に帰ってて」とメールが来た。
冬とはいえ室内競技の部活動が忙しくて、厳しいのに変わりはなく、ここ最近はメールのやり取りしかしていない。こういう時クラスが離れているのはとても寂しいと思う。
徹と付き合い始めてから初めて知った感情だ。
冷たい人間ではないにしろ「淡々としている」と友達にはよく言われた。
花巻なんて初対面の時、声にはしなかったものの「つまらなそうな奴だな」というのが顔にありありと書いてあった。

そんな中徹だけが嫌な顔一つせず私に接してくれた。
徹の計らいで岩泉や花巻、松川とも仲良くなり今ではいい友達だ。付き合い始めて暫く経った頃、徹にその事を聞いてみたら「実はさ、一目惚れだったんだよね」と恥ずかしそうに笑いながら答えてくれた。
勿論、これは嘘なのだろう。

『一目惚れ』なんて彼が嫌うものの一つだ。
徹は一目惚れをする側ではなく、される側で何時だって大変な思いをしてきたというのは、彼の近くにいて良く分かった。正確に言えば、彼が女の子する接し方をみていて思ったことだ。徹は何時だって親切で優しい。それは老若男女問わない。まぁそこには天才という例外はそこにはあるみたいだけれども。
でも、女の子と接する時は少しだけ警戒している。少なくとも、気を持たせるような事は徹底してしなかった。

これは冷たいのではなく、ほんの少しの優しさと、自衛から来るのだろう。
それを知っていたから、私は自分の気持ちがばれないように気を使っていたのだが、何せ初恋なものだから上手くいかなくて、今から思えば人の気持ちに敏感な徹にはばれてしまっていたと思う。
それでも徹は私を遠ざける事無く優しくしてくれた。ただ、それは周りの女の子とは少し違う優しさで、その事に戸惑いつつも、嬉しいと思う自分がいた。
でも、もしそれが『仲の良い女友達だから』と言う理由だったらどうしようと一人一喜一憂していたら、ある日突然徹が告白してきた。

曰く「これ以上いったらお前俺を避け始めるだろ」との事で、まさに図星だっからとても恥ずかしかったのを今でも覚えている。

あの時は暑い位だったのに今は身体の芯から凍える様な寒さで、気づいたら一つ季節を跨いでしまっていた。はーはーと手に息を当てながら寒さを凌いでいると「詩織!」と私を呼ぶ声が聞こえた。
笑いながら振り返れば徹が焦ったようにこっちに向かって走ってきていて、流石はバレー部というような速さだった。

「お前、何してんの」
「何って徹の事待ってたんだよ」

へにゃりと笑いながら言えば、嬉しそうな顔をしたのにすぐ怒った顔になった。

「だからって外で待っとることだろ。ああほら、鼻まで真っ赤じゃん」
「ふはっ、一回こういうのやってみたくて」

待ってるの楽しかったよ。と伝えると「ばかじゃないの」と言いながら両手で私の頬を包んで温めてくれる。じん、と徹から伝わる熱が気持ちよくて、だらしなく笑うと「何笑ってるの」と手を離されてしまった。
ちょっと残念。・・・嘘、凄く残念。

「ほら、帰えるよ」
「ん」

当然のように手を差し出す徹に今度は身体の内側から、じん、と熱が湧くのが分かった。「ん?」と小首を傾げる徹に、笑いながら手をとれば「うわっ氷みたいだ」とぎゅうと握ってきたから私もぎゅうと握り返した。

「あれ、そう言えば手袋は?」
「あ」

「教室に置きっぱだ」とまったく気にしない風に言うから、ごめんねとありがとうが身体の中に一気に溢れる。こんな寒い日に徹が手袋を置きっぱなしするはずないんだ。きっと、今肩に掛けている鞄にそっと仕舞ってあるんだろう。

「ありがとうね」
「何、急に」
「んーん、何でもない」
「そう?」

凄い降ってるね、と曇天を見上げる徹にもう一度今度は声には出さず「ありがとう」と呟いて「これ以上降る前に帰ろう」と手を引っ張って歩き始めた。
「今回は結構積もるらしいよ」と上を見ながらいう徹に「積もったら雪だるま作ろうね」と言いながら歩く。明日は朝練がないって言っていたから、きっと真っ白に染まった通学路を寒い寒い言いながら手を繋いで歩くんだろうな。
こっちにきて初めて過ごす冬が徹と一緒で良かった、と思う。
きっと楽しい冬になる事間違いなしだからね。
「コンビニよって肉まんでも買って帰る?」とこっちを見て微笑む徹を見上げてそんな事を思った。


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