これの続編的な


真剣に雑誌を読み続ける横顔を眺めていたら無意識といって良い程素直にぽろりと言葉が落ちた。
すると鉄朗はあ?という顔をしてこちらを見てきたので、ほんの少し、もったいない事をしたなぁと思ってしまった。

「悪い、聞こえなかった。今なんて言った?」
「いや、大した事じゃないので」
「いやいや、普通に気になる」
「えー」

本当にたいした事じゃない、というか寧ろこれ以上ない失礼な事なので、言うのを渋っていたら何を言うでもなくこちらをじっと見つめてくるので仕方なく、本当に仕方なく言う事にした。

「淫乱な女からは美しい人が産まれるんだなぁ、と」
「は?」

ほら、ほらね、そんな「何言ってんのこいつ」みたいな顔されるの分かってたから言いたくなかったんだ。しかし暗に「鉄朗の母親って淫乱?」と言われている様なものなのに何故きょとんとしているのか。今度は私が鉄朗をじっと見つめていれば、何かを考えているらしい鉄朗は一人「あぁ」と納得した顔で「俺、お袋似」と返してきた。

「存じております。大変お美しいお母様ですよね。しかも旦那さんラブの素敵マダムですよね」
「まぁ万年恋人夫婦だからな、居づらいったらありゃしねぇ。というか、それって『いんらんな女からは美しい娘がうまれる』が正しかったよな?」
「・・・知ってたんだ」
「この前借りて読んだから」

よもや鉄朗がこの手の恋愛小説を読もうとは。
というかあれか、また私の部屋から勝手に本持ち出したんだな。まぁ「何時か返してくれるなら勝手に借りてってもいいよ」といった私も私なのだけれど。

「それに俺と詩織は誰が見ても兄妹にはみえねーから、それは適用されないだろ」
「平凡顔でごめんね。言わせて貰うけど鉄朗の顔が整ってるだけだから」
「知ってる」

そうだよね、知ってるよね、自分の事だもの。
なんか無性に腹が立ったので、ばしぃと鉄朗の腕を叩いてみた。
「痛てぇよ!」と腕をさする鉄朗にうそつけ、と返した。
自慢じゃないが私の腕力は平均以下だ。ただでさえそれなのに日頃鍛えている鉄朗が私如きの平手を痛がるなんておかしい。

「それよりも鉄朗さん、それ以外にも何冊か持っててるよね?」
「あー2,3冊?借りた」
「鉄朗が本読むなんて珍しいね」
「なんか、あー・・・詩織が好きなものを俺も読んでみっかなぁ、みたいな?」

にやりと笑いながらいう鉄朗に何も言えなくなる。ああ、私は大事に、大切にされているのだなぁと実感できて、意味もなく目頭が熱くなった。
私は、鉄朗に何か返せているのだろうか?
返せてると、いいなぁ・・・。

「そうそう、俺あの本好き。・・・なんだっけ?あー、人生は皆アマチュア、みたなの」
「『人生では誰でもアマチュア。初めて試合に出た新人が失敗しても落ち込むなよ』」
「それそれ」

選び所が鉄朗らしいというかなんというか。
「これ言ったのが空き巣だからなおいいよね」と言えば「普通空き巣はそんな事言わねーからな」と返してきた。
鉄朗のおかげで、私たちは同じ話題で話す事ができる。
私も、少しはバレーを勉強しようかな?と考えていると思ったより冷えていたのか、くしゅっとくしゃみがでてしまった。

「茶淹れてくる」
「え、いや、大丈夫だよ」
「女が体冷やすなよ」

そう言って私の頭を優しく撫でるので、私は何も言えなくなってしまう。
キッチンへ向かいポットでお湯を沸かしている鉄朗の背中を見ながら、遠い、とおい未来を思ってみた。来年のことを言うと鬼が笑うらしいけれど、それでも私は鉄朗との先を思い浮かべたい。
もし、もし将来私が鉄朗の子供を産めるのなら、男の子は鉄朗みたいな子がいい。
顔も鉄朗に似ていて、ちょっと小憎たらしいけど優しい子になるだろう
そして、女の子だったら、私のような平凡な顔で産まれて欲しい。
きっと、私はこの平凡な毒にも薬にもならない顔で産まれてきたおかげで、鉄朗に見つけてもらう事が出来たのだと思うから。
とんだ妄想だ。と自分を笑ってみるも、実現したらなんと幸せな世界だろう。
一人で笑っていると、鉄朗がこちらに振り向いて「何一人で笑ってるんだよ」と聞いてきた。
まさか「鉄朗と私の子供を想像していた」とは言えず、なんと言って誤魔化そう?と考えれば、そういえば本棚から消えていた本の中からあの台詞を言ってみようと思った。
今の流れにまったくそぐわず、成立もしない。
けれど、きっと鉄朗なら分かってくれるはずだ。
私はすぅと息を吸い、鉄朗に向かって大きな声で言葉を吐いた。

「ロマンはどこだ!」

すると鉄朗はぶはっと噴出して笑うから私もつられて笑ってしまった。
しかも、目に涙を浮かべながら笑う鉄朗が「これ飲み終わったら銀行でも行くか?」と聞いてくるからいよいよ笑いが止まらなくなってしまった。
ああ、よもやあの電車での出来事から私と鉄朗がこんな関係になるなんて誰が思っただろう?もしかすると、これが彼らのいう『神様のレシピ』というものなのだろうか?

だとするなら私はこの先何があろうともこの幸福を心ゆくまで満喫しようと思う。


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前サイトのリメイク作品

大学生位で

引用
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』桜庭一樹 角川文庫
『ラッシュライフ』伊坂幸太郎 新潮文庫
『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎 祥伝社文庫

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どれも素敵な作品なので、良かったら読んでみてください。
でも、ここからは飛ばないで下さいね。