『あ、もしもし?黒尾君?申し訳ないんだけど、あのバカ迎えに行ってくれない?』
「はぁ、分かりました」

気持ちよく寝ていたら、電話で叩き起こされた。相手は詩織の大学の友達で、初対面時に「お互いあのバカに振り回される立場として、連絡交換をしない?」と持ち掛けてきた人だ。まぁ俺としても情報交換できる相手として申し分なかったし、そのまま交換して以来、ちょいちょいこういう事がある。
詩織がいる場所を聞いてそのまま切る。最後に「ちょっとあいつのこと締めといて」と言っていた気がするが、恐らく俺の気のせいだろう。そうだと思いたい。外に出られる格好に着替え、携帯を見れば、12時をとっくに超えていた。明日は休みだし、部活もないからいいんだが、あのバカ本当に何してんだ、と思っていれば、自然とため息がでた。
家をでて、教えて貰った公園へ向かう。東京とはいえ、街灯が少ない所も勿論あって、今詩織いる所は運動公園も兼ね備えているので、勿論街灯は殆どない。あいつほんと、何考えてんだろうな。
ふらふらと公園に行けば、出入り口付近にあるポールに腰かけている人影をみつけた。こっちに気づいていないみたいだが、近づいて行けばそれが詩織だというのは一目瞭然だった。この危機感のなさでなんで夜中に外に出るんだ、マジで。
声が届くところまで行き、「おい」と声をかければ、詩織はびくっとした後に振り返ってた。

「え、鉄朗?…えっ、なんでこんな所にいるの?」
「それはこっちの台詞だ、バカ野郎」

詩織の頭をひっぱたきながら言えば、本当に分かっていないようでため息しかでない。

「お前ここで何してんの?言ってみ?」
「え、何って、なんか非通知の電話がかかってきて『運動公園で待ってます』って言われたから来たんだけれど」
「お前、マジ莫迦だろ。危機感ねーの?その頭には脳みそじゃなくて糠味噌でも入ってるのか?あ?」

自分が思っている以上に怖い剣幕でもしているのか、俺の顔をびくびくとしながら見上げている詩織の頭をもう一度叩く。仕方ないから、高橋さんから連絡がきて迎えに来た事を伝えれば、詩織は面白いくらいに青ざめた。

「え、ちょ、なんて言ってた?」
「さぁ?取り敢えず帰ったら連絡入れとけよ。明日が楽しみだな?」

恐いよ、助けて!という詩織を引きづりながら家に帰る。こういう時、家が隣同士というのは送り易くていい。しっかし、これで俺より3つも年上だというのだから、末恐ろしい。こんなのが再来年から社会人とか日本大丈夫か。まぁ人を疑わないのは美点ではあるけれど。能天気すぎるのは汚点だな。
諦めがついたのか、おとなしく俺の横を歩く詩織が「そう言えば」と俺に話しかけてきた。

「はっしーから連絡が来たとはいえ、それだけでわざわざ迎えに来てくれたの?」
「それだけで、じゃねーよ。女が一人でこんな時間に出歩くな。このバカ」
「さっきからバカバカ言い過ぎ!ひどい!」
「ひどいじゃねーよ。自業自得だこのバカ」

そういってまた頭をたたけば、「乱暴もの!昔は詩織ねーちゃんって言って私の後ろにくっついてたくせに!」とか言い始めた。いつの話だよ、少なくとも10年以上前だぞそれ。

「昔は鉄朗も可愛かったのになぁ。今じゃこんなにでかくなって、おねちゃん寂しい」
「ばばあかよ」
「まだ21だよ失礼な!」
「21でこの能天気さか。詩織の先は暗いな」
「暗くないよ!めっちゃ明るいから!その内鉄朗みたいに格好いい彼氏作って紹介してやるからな!」
「ふはっ、そりゃ楽しみだなー」

そうそうそう言えばこいつは相当なブラコンだったわ。そりゃ彼氏作れねぇーわけだ。まぁ実際はただの幼馴染ってだけで、血は繋がってないけれど、昔っから俺や研磨の事べた褒めだったしなぁ。

「私が彼氏連れてくるときは、鉄朗も彼女連れてきなさいよ?っていうかいい加減会わせなさいよ」
「詩織がこんな事しなくなったら会わせてやるよ」
「どういう意味!」
「そういう意味。お前そんなんで将来嫁にいけんのかほんと心配だわ」
「今に見てなさいよ、びっくりする位幸せになって見せびらかしてやるから」

私の花嫁姿はびっくりする位きれいなんだからね!と真顔でいう詩織に笑いがでる。つか俺も、後、研磨もびっくりする位シスコンだから、多分詩織が嫁に行くってなったら多分えらい事になる。なにせ、ちらっと想像しただけで泣きそうになるんだから。
お前、マジで覚悟しとけよ。その時がきたら、俺と研磨は詩織の家族やこいつの旦那になるやつとそいつらの親族がドン引きする位号泣するからな。

まぁなにはともあれ、血は繋がらなくとも、大切な幼馴染で姉である、詩織の事を安心して任せられるなって相手を連れてくるまで、研磨と、主に俺がこいつの番人って事で、ひとつよろしく。


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心配の絶えない妹のようで、頼りになる姉のようで、気の置けない友人のようなあなた。

恋愛感情はないけれど、まるで家族愛のような愛情を持っているような関係が好きです。