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「はぁっ…はぁ…」

小走りとはいえ久々に走ったものだから部屋に入った頃には息を切らしていた。
胸に手をあてて呼吸を整える。
暫くして呼吸は整ったのだけれど、心臓がいつまでもバクバクしていて顔に集中した熱がおさまらない。

「どさくさに紛れて、名前、呼び捨てされた…」


初めて呼び捨てで呼ばれた。


初めてあの人の口から私の名前がこぼれた。
名前をよばれるなんて、恥ずかしいとかそんな事全く無い筈なのに、あの人から名前を呼ばれたって事だけでこんなにも自分が照れている意味がわからない。
「そういえば、だっ…だだだ抱き締められて…ふ、不純よっ」


名前を呼ばれたり、抱き締められて大騒ぎしている自分が情けない。
それと同時に少し嬉しい自分が不純な気がしてならない。
でももう結婚していて夫婦な訳だから、これが普通なのだろうか。

「で、でもお互い愛し合ってる訳じゃないし、それにあんな子供…あんな…」


そんな訳無い。
私があの人の事好きだなんてありえない。
そうだ、これは元々政略結婚なんだから。
父の思い通りになるのが嫌で、嫁ぐ時に私は相手を絶対に好きにならないって決めたの。
だから、私があの人の事、あんな子供好きになんてなってない!



私は自問自答を繰り返しながら、ふかふかのベッドに倒れこんで身を沈めた。


stop|stop


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