壁
「結婚しようか」
「え、」
おひさま園のリビングの床に座って編み物をしていたらソファに座っているヒロトがなんの前触れもなく呟いた。
ムードは空気である。
「あの、私」
「ん?」
パリンッと何かが割れる音がしたので振り返ってみると飲み物を取りに台所にきた怜名がマグカップを落としていた。
「怜名大丈夫?怪我してない?」
「あっ、ああ大丈夫だ…それより結婚って」
「怜名聞いてたんだ、まあもう24だし、そろそろって思ってたんだ」
「お前なんかが輝と…?」
私とヒロトを順番に目を追って何回も見合わせる怜名の眉間にはシワが深く刻まれていた。
怜名は昔から私と仲良くしてくれている大切な親友だ。そしてヒロトを凄く毛嫌いしているものだから、結婚というワードを認められないのだろう。
「親友として認められない」
「なんで怜名の許可が必要なんだよ、俺は輝と結婚するって何十年も前から決めてるんだけど」
「お前みたいな変人に輝を任せれるわけないだろ」
あろうことか喧嘩が始まってしまった。
どちらの気持ちも嬉しいんだけども、怒っている2人の気迫が凄くて嬉しいとか考えてる場合ではない、早く止めなくては…
「輝の気持ちを聞かせてよ」
「輝!こんな奴だめだ!!」
「あ、えっと…」
只今私は修羅場というものを体験しているようです。
前 | 戻る | 次