彼があっちに行ってしまいそうだったから、私は彼のコートを軽く摘んで引っ張った。
すると彼は予想通り私の方を見て「何だ」と聞いた。
いつもは「なんでも?」とついつい応えてしまう。
だって「カイトがどこかに行ってしまいそうだったんだもの」なんて私には似合わない台詞だから応えられない。


でも今日はホントにカイトがどこかに行ってしまう気がしたの。
だから今日は勇気を出して言ってみようかな。


「どこにも行かないで」


凄く小さな声で言ったのにカイトはちゃんと聞いててくれていて、一度離れた自分の身体に私を引き寄せて抱きしめてくれた。



「ああ、私やっと言えた」


この声はカイトに届いたかどうかはわからないけど、カイトはいつもより強く抱きしめてくれた気がした。
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