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切り捨ててきたの、と、彼女は云った。わたしはいつだって切り捨ててきたのよ、と。
わたしは幼いころからそうだった。始まりはおもちゃだった。いらないのだ。他人が興味を示さないおもちゃなど。それらはいつだって他人からの羨望を得るためだけに持っていた。自分から自分のためだけに欲したことなど一度もなかった。流行りが変われば即捨てた。モノにストイックなわたしは人に対してもストイックだった。気付いたらわたしはいつだって周りの人間を仕分けしていた。彼はわたしに利益をもたらすから繋がっていようとか、彼女はわたしに害しか与えないからいらないやとか。またはこの人とつながっていればわたしにこんなメリットがあるがそれよりもデメリットの方が大きいので斬る、とかね。知人だけじゃない。友人や恋人や、ときには親類までもふるいにかけた。そうしたことでうまくいっていたのだ、わたしの人生は。総てがわたしの思い通りだった。
私は彼女の話を一通り聞いた後に、じゃあ、と訊ねた。
じゃあ、なぜ貴女はここにいるの?
「それが、わたしにもわからないのよ」
彼女は心底不思議そうに云った。
「わたしはいつだって世界の中心だったわ。いらないものは要らないと切り捨てて必要なものでもその道を塞ごうモノは総て捨て去ってきた。でもいつの間にか何を捨てても何かが邪魔なの。友人も恋人もみんな捨てたわ。けれど邪魔なの。親でさえ捨てたのよ。それでも何かが邪魔をした。だからわたしは捨てたのよ、世界を捨てたの。いらないと切り捨てたのに、わたしはどうして―――」
あわれな、と私は語りかける。彼女の細く長く美しい髪を梳く。
「まだ気が付かないの」
「どうして?」
「切り捨てられたのはあなたの方なのに」
「どうしてなの?」
「とても哀れ」
千万の灯篭が流れる河を下る。
今日も世界は平和なのに人々は決して幸せにはなれないのだと、私は彼女を眺めて思うのだ。
20101206